結婚しようよ!
幸村にとっても、真田との日常に大きな変化は見あたらない毎日を過ごしていた。
だから、さっき花壇の前で、この先の真田との未来に何かあるかを訊ねたら、「ある」ときっぱり言い切られてじーんときた。
厳しい表情だったのは、真田の本気のしるしだ。
その帰り道にドラッグストアの前を通ると、幸村は指をさした。
「整髪料見てくる」
先に店内に入った。
今使っているのはイマイチだったから、別なのを試すつもりだ。商品を手に取ったり戻したりして迷っている。
これは時間がかかるな、と思ったのだろう。
真田はどこか他を見に行ったらしい。
左右を見回しても姿はない。
そんな事がちょっとさみしくなったのは、真田のポディションが"彼氏"になったからだろうか。
(いた!)
店内を順繰り歩けば、トレードマークの黒帽子は見つかった。
衛生用品の棚の前で、やっぱり厳しい表情をして立っている。
(また無茶をしてケガでもしたかな?)
絆創膏くらいなら買ってやるつもりでいた。
しかし次の瞬間、真田が手に取った物を見て、思わず立ちすくんでしまった。
(あれって…!)
真田がこちらに気づいたようだ。
幸村は咄嗟に斜め後ろの棚のスキンケア用品に視線を移した。
「幸村、買う物は決まったのか?」
「ああ、うん…ちょっと肌の保湿もしたいなって。ほら、冬は乾燥すごいから」
「そうか。どうりでおまえの肌はいつもきれいなわけだ」
その時、すっと真田の顔が間近に迫ってきて幸村は身動きできなかった。
「では俺は先に会計に行くぞ」
肩をぽんと叩かれれば、幸村は体をかたくさせた。
間違いない。あれはコンドームだった。
(でもどうして真田が?)
幸村の頭は混乱していた。
レジでは、店員が真田が買った物を不透明の袋に入れている。
店員は女性にも関わらず、スマートに会計を済ます真田は大人だった。学校帰り、同じ制服を着て、表情ひとつ変えないで会計を済ましていた。
(まさかあの高跳びの彼女…)
真田と入れ替わりでレジに進む。
震える手で鞄から財布を探った。
「これでお願いします」
もたもたしていると、横から真田がお札をコイントレイに出した。え、と顔を上げると、「いいから」というように頷かれた。
店を出た先で、袋を渡された。
整髪料と顔の保湿のやつを買ってもらってしまった。
「あ…りがとう」
「いいから。気にするな」
おまえは何買ったんだよ、とは訊けなかった。
本当は幸村も真似をして、同じ物を買おうとしていた。でも、種類やサイズがよくわからなくて、何よりレジに持って行く勇気がなくて簡単に諦めてしまった。
「幸村。家に来ないか。おまえを紹介したい」
「紹介って…久しぶりだけど、はじめましてじゃないだろ?」
「これからよく来る事になるんだからな」
幸村が目を丸くしていると、
「ちがうか?」
得意気な顔をする真田に、
「ちがくない…」
声を出すのがやっとだった。
