結婚しようよ!


テニスコートに立った俺は、サーブだけをひたすら打った。
いつまでもしとしとと降る雨を断ち切るような気持ちだった。

「真田」

呼びかけに振り返って、サーブを打ち損ねた。

「ゆ…きむら…」

「無理はいいけど無茶はするなよ」

幸村は歩み寄ると、傘の下に俺を入れた。

「よかった。また断られたらどうしようと思った」

幸村はほっとして、さみしそうに微笑(わら)った。

「俺はつい傘を差し掛けてしまった。それがいけなかったよ。彼女は女子であってもキミに似ているのをうっかり忘れていた」

「悪いが、あまり聞きたくない話だ」

「俺は彼女にキミを重ねたよ。キミにできない事も、彼女になら許される気がしたから」

「どういう意味だ」

「だって、おまえにがんばれって言えないし。優しくするのもなんか変だ。…まったく、彼女もキミも無茶をすれば強くなると思っているから困るね。彼女ね、真田を尊敬してるみたいだよ。陸上大会で表彰台を狙ってる。俺たちの全国大会の無念もよくわかってた」

俺はほとんど幸村の話の後半は頭に入っていなかった。

「そ…そんなわけだから、やっぱりキミのようなタイプの人間には陰ながら応援するに限るな。いいよもう、好きなだけずぶ濡れにでも体中キズだらけにでもなれば」

ふいと顔を背けた幸村の、傘の柄を握って引き寄せた。

「…おまえの、ちょっとずれてるみたいな空回りの努力が好きだよ。ちゃんと届いてるから」

俺は誰のために、何をしたくて、今ここにいるのか。
その答えが自分の中に見えたとき、俺の努力はまったく違う形で実を結びはじめるだろう。

「真田。おまえの頑張りは、ちゃんと、俺の力になってるから…」

幸村が肩にもたれた。
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