結婚しようよ!



中三の秋になった。
霧のように細かい雨が降っていた。
この日、幸村は美化委員の活動で部活には来られない。
予報では台風が近付いている事もあって、室内での基礎トレーニング後、早めの解散となった。

スマートフォンに幸村からの連絡はない。
それならいつも通り一緒に帰る気でいるのだ。
俺は幸村を待つ間、非常階段をダッシュしていた。
四階を二十往復した。

休憩がてら窓の外を見た。
窓枠に肘を置いて何気なく真下に視線をやると、そこに傘を差し掛ける幸村を見つけた。
いうまでもなく傘の下にいるのは走り高跳びの彼女である。
もう一年以上も幸村は彼女を気にかけている事になる。

幸村と並んではじめて、彼女の異性に気がついた。
丈の短いユニフォームからすらりと長い手足がのびていて、小さな顔に黒髪のショートカットが幸村を見上げていた。
あ、と思って身を引いた。
彼女がこちらを見たような気がしたのだ。
次に窓の外を覗いた時には、もう二人の姿はなかった。

俺は幸村に連絡を入れると、ラケットを肩に担いで外に出た。
彼女に触発されたわけではない。
ただ、このまま幸村と帰る気にはなれなかった。
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