落花流水〜ハジメテ〜
腰を進めて揺さぶると、幸村の中性的な容姿に輝きが増した。
きれいな肌は、跡部の精力を吸収してしっとりと瑞々しくなった。いつもやさしい雰囲気の髪型は、ばらばらに乱れてしまう。
「あとべ…あとべ…」
喘ぎながら時折、艶のある声で名前を口にされると、跡部の高揚感はぐんと増した。
「ン…跡部、じょうずになったね」
幸村は愛情に満ちた眼差しで、跡部の髪を撫でた。
「…よせ」
突然そんな風にほめられると、くすぐったい。
それでも手を払わなかったのは、幸村の包容力に安心したからだ。
ふと、離れて暮らす母親の顔が頭に浮かんだ。
幸村の体を抱きしめた。
初めて幸村を抱いた時の事を思い出す。
こわかったのを覚えている。
初めて見る幸村の体に興味と興奮は隠せないのに、なかなか先に進めなかった。
とても入る気がしない、と弱音を吐いた。
ーーーそう…じょうずだよ。大丈夫だからそのままおいで…
この時も、幸村は穏やかな顔で手を握ってくれた。
今でも弱音を吐いた自分が信じられなかった。
弱音を吐くこと自体が悪い事だと思って生きてきた。
それが、"こんな事で"と、つい意固地になった。
今思えば、幸村に甘えたのだ。
気づけば全てが終わって、ようやく幸村の顔を見たら、
ーーーありがとう
目に涙をためて、微笑んでいた。
「おまえは、こわくなかったのか」
今になって、跡部は心のつかえを幸村に問い質した。
腕枕をしてのピロートークの最中だった。
初めてなら、こわいはずだ。
だが、幸村にはゆとりがあったように見えた。
だとすれば、跡部の他に男がいた事になる。
それが三回抱いて、独占欲を強くした跡部には許せなかった。
「なんだい今更。そうだなぁ…跡部がこわくないようにしておきたいな、とは思ったよ」
くすっと笑った幸村に苛立った。
「チッ…そのために誰とヤッた」
「だれ?俺はキミとが初めてだよ。跡部以外となんて考えられない。そんな想像やめてくれないか。虫唾が走る」
幸村は本当に嫌な顔をした。
「悪い…違う。そうじゃねぇ。おまえの肝が据わってたから、不甲斐なくて悪かったと思ってる」
できる事なら忘れてほしい苦い経験だ。
「もうこわくないだろ?」
「幸村、おまえは…」
「うん?」
にこっとして、首を傾げた幸村の健気さがわかってしまった。
きっと無我夢中の跡部の目を盗んで、歯を食いしばって涙をこらえていたのだろう。
「何でてめぇだけ辛い目にあってんだ!」
本当はそう怒鳴りつけてやりたかった。
でもそれをやってしまったら、幸村の努力が報われない。
「ばーか。人の心配ばっかしてんじゃねぇ。これからはなァ、おまえがこわがるくらい、おまえを俺様のものにしてやろうじゃねぇの」
びくっと震えた幸村の、髪をくしゃくしゃに撫でて胸の中に抱き込んだ。
「おい、こっち見ろ」
「…無理。恥ずかしい。三回して、今日が一番恥ずかしい。跡部、かっこいい…俺、まだ…」
「まだ、何だ」
「まだいける…」
小さな声の中に強い欲望を伝えてくる幸村は、最高で最強だ。
幸村が確実に自分に惚れているのが嬉しかった。
「なら、俺様を見ねぇとな…キスから始めるぜ?」
太腿を撫で上げると、幸村は股を閉じてその手を挟んだ。もう濡れている。顔に似合わず性欲は強いのだ。
跡部は少し考えて、
「さぁて、俺様の唇はどこにもっていくか」
自分の言葉ひとつ、行動ひとつで、いくらでも幸村と楽しめる。
「ぅふふ…こっち…」
と誘われるままに顔を埋めた。
