落花流水〜ハジメテ〜


跡部が土曜日の校内を幸村を連れて歩くのも三度目だ。
吹き抜けのカフェテリアは幸村のお気に入りになったし、広々とした図書館でおすすめの本を読みあった。
デート終わりに、購買で日替わりの薔薇をプレゼントするのが跡部の決まったルーティンになった。

授業はないが、部活動や自主学習で生徒は一定数いる。
跡部一人でも目立つのに、立海の制服を着ている幸村は注目の的だ。
幸村本人は自分の人気ぶりを気にも留めないで、離れていた三ヶ月の間に起こった出来事を跡部に喋り続けている。

ーーーそれでね
ーーーそうだろう?
ーーーするんだよ
ーーーだよなぁ…

ころころと変わる幸村の話し方は面白いと思う。

「今日はやけにお喋りじゃねぇの」

くっと笑って幸村の顔を見た。
すると目を丸くして、むっつりと黙り込んでしまった。

「おい、何だ急に」

幸村の肩をつかんで歩みを止めた。

「…だめ。今日は喋ってないと落ち着かない。跡部、顔がいいもの」

幸村は、さっき買ってやったドリンクを大事そうに両手で包んで飲んだ。
跡部と違って、幸村は自分の顔の良さをわかっていない。
跡部は幸村の手からドリンクを奪って、断りもせずにストローを咥えた。

それからも跡部は幸村を連れ回す。
人目を意識して、学園中に幸村を見せつけるのが楽しかった。
これまで跡部にくっついてきたメス猫共も、二人の醸し出す雰囲気によって近寄れない。遠巻きに見て、ハンカチを噛んで悔しがってくれれば満足だった。

「おい、静かだな。つまらないなら、シアターを貸し切るか。それとも、おまえの花壇の様子を見に行くか?」

跡部は空になったドリンクを取り上げて、おとなしくなってしまった幸村の気を引きたかった。
幸村は首を振って答える。

「もういいから、バラ買って」

跡部はショックを受けた。
薔薇を買うという事は、今日はもうおしまいだと言われているのと同じだ。
いつも校内デートの終わりに、購買の日替わりの薔薇を持たせてやるのが跡部の役目だった。
しかし今日はまだ陽が高い。 
帰るには早すぎるのだ。
それに、夜の都合だってある。
幸村はいつも泊まっていく。
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