落花流水〜ハジメテ〜


「随分楽しそうにしてたじゃねぇの。アーン?」

跡部は、学校名とその部長を名指しして、幸村に詰め寄った。そいつは会合中、ついさっき別れ際まで幸村の傍を離れなかった。
跡部が何度となく目つきで幸村に知らせても、幸村は変わらず唇で笑い返すだけだった。
イライラする跡部をわかっていて、からかって反応を楽しんでいるのだと思った。

今回の会合は三回目。
回を増すごとに幸村へ接近する輩も増えていた。
幸村との密会もこれで三回目になる。
つまり体の関係も、これから三回目になろうとしていた。

「どこの誰かなんて知らないよ。逆に聞くけど、跡部は知ってるんだ?へぇ…ふぅん…そう」

「何か言いたそうだな」

幸村の背中を壁際に押しやって、股下に自分の片膝を差し入れた。
女子がされてみたい壁ドンのポーズを簡単にやってのける。

「…知らないって言ってるだろ」

目を伏せた幸村の顎を指で持ち上げる。
夢女子が憧れる顎クイだって、幸村になら何度もやってきた。

「俺は跡部景吾だけ知っていればいいんだ。何度も目が合ったね。俺はうれしかったのに。跡部は俺じゃなくても記憶に留めるんだ?」

跡部は人の顔と名前をすぐに覚えてしまう。
上に立つ者なら当然だと思っている。
不機嫌な幸村の唇を塞いでしまおうとしたら、拒否された。

「アーン?」

「県大会初戦負けさ」

幸村は、無関心で歯牙にも掛けない様子で言った。
もしこれが自分に向けられたとしたらと思うと、跡部はぞっとした。

「なるほどな…身分違いってわけだ。おまえもひでぇやつだな」

「俺はそこまで言っていないよ」

まぶたを閉じて、ふふっと笑った。
今度はキスを受けてくれた。
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