幸村のいる家



真田が日本を発つ前の最後の夜。
布団を共にした真田は、幸村をきつく抱きしめて泣きじゃくった。

(このまま眠ってしまいたくないなぁ。真田をまだ感じていたい)

そう思っていても、くたくたになるまで抱かれた体はいう事をきかなかった。

"行ってくる"

昼過ぎに目を覚ますと、それだけ書き残して海を渡ってしまった。
あんなに泣いたのが嘘みたいに簡単な別れ方だった。

(まあ、正解だよ。これ以上一緒にいたら子供にもどってしまいそうだ)



真田が再び異国のコートに立つ日がきた。
幸村は真田の懐に包まれている夢を見ていた。

「このまま眠ってしまいたくないな」

瞼を開けた。
医師は驚いて顔を見合わせた。
麻酔の効きがいまひとつだったのか。
それとも、意識を手放せないほどの記憶を心に留めているからなのか。
なだめて、麻酔をゆっくり注入した。

(真田。さみしくないかい?おまえは純情だから俺は心配しているんだよ。外国でうまくやっていけるだろうか。騙されたり裏切られたりしないだろうか。おまえがさみしい時に傍にいてやれなくてごめん)

麻酔医がモニターを確認して、幸村の意識がもう直離れていくのを見届ける。
手術室に朗報が舞い込んだのは、ちょうどその時だった。

「幸村君。聞こえるかい?真田選手の先制だそうだよ」



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