幸村のいる家


「お呼びじゃないよ」

幸村が、わざとつんとすました顔で玄関に出迎えると、跡部は少し返答に困ったようだ。

「俺が呼んだ」

けれど真田が片手を上げてあいさつを交わすと、安心したように部屋に上がった。
桐箱に入った日本酒を幸村に手渡すと、ネクタイを緩めて真田の隣に腰を下ろす。
どうみても高い酒に、幸村は少しむうっとしながら簡単なつまみを付けて運んだ。

跡部は、幸村が飲み残した酒を飲み干すと、空になったぐい呑みで真田から酌を受けている。
跡部が来るとわかっていたら酒の種類も見栄を張ったのに、と幸村は思った。

「旨い」

「優勝祝いだ。当然だろ」

二人の男は、真田がここまで勝ち進んできた試合を振り返って盛り上がっている。

「幸村。おまえも来んか」

「いいよ別に。聞こえてるから」

キッチンのカウンターテーブルで、自分で買った日本酒をちびちび飲んだ。
さっき真田の隣で飲んだときとは違って、あんまり美味しくなかった。

「英国で偶然跡部に会ってな。右も左も分からない俺を世話してくれた。通訳やら交渉やら助かったぞ」

「そんなのは大したことねェ。それより優勝となれば知名度が上がる。スポンサーやら企業やらから声がかかるぜ。プロってのはテニスだけしてりゃいいってもンじゃないぜ。わかってんのか?」

真田は、信じられないという顔を跡部に向けた。
跡部は、これだよ、という呆れ顔を幸村にしてみせた。

「跡部。真田が苦労かけるね」

「俺様がプロデュースするんだ。次に会う時は幸村、おまえの知らない真田弦一郎になって帰って来るかもなァ!手塚にも負けない真田にな!ハーハハハ!」

(テニスの話はもう終わりか…)

幸村は気持ちが冷めるのを感じて席を外した。
話はスポンサー契約に移っている。
跡部が付いていれば真田は安心だ。

真田のテニスにかける情熱はすごいから、テニスの心配はいらないだろう。不安だったテニス以外のプロ活動は、こうして跡部が助けてくれる。
かつて、手塚を軸に打ち解けられないライバル視をしていた真田と跡部が、今はこうして手を取り合っている。
"打倒手塚"はずっと二人の目標なのだ。
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