幸村のいる家
風呂の温度は45度。
夕食のメインは肉。
押し入れの布団も干しておかないと。
部屋着の甚平、どこに仕舞ったっけ。
真田がこの家に帰って来るまでにやるべき事はたくさんありそうだ。
それに、幸村は自身の身支度をしなければいけない。
なぜなら、
"帰ったら、抱かれてほしい"
こんなときの、真田の言い回しが好きだった。
真田を迎える準備の手を止めて、何度もスマホを開いて文字を目で追った。
はっきりいって、対戦相手は格上で勝算が低かった。
真田はプロになってしばらくは成績が振るわなかった。ダークホースとして飛躍したのは最近の事だった。
(勝つとわかっていたら事前に準備していたさ…て、いうか、直帰ってこっちの都合も考えろよ)
勝ったからって調子に乗るなよなと思いつつ、またスマホを開いて目を細めた。
最後に自分の準備をする。
41度の風呂に入って、肩まで湯に浸かった。
使い時がわからずにいた高級そうな入浴剤を試してみた。跡部がくれた輸入物で、泡の効果で肌がしっとりすべすべになる。
フローラルな香りが浴室いっぱいに広がって、なんとなくうっとりした気分になってきた。
(久しぶりだな…真田とするの…)
前にした時の記憶を呼び覚ますだけで、幸村のからだはもう準備を始めていた。
「あぁ…真田…きて?」
指を沈めて、慰めた。
それは真田の性能に比べればとても乏(とぼ)しい。
それでもそこに何かを埋めたかった。
体の中から湧き上がるこの情熱は、真田との強い結びつきを求めている。
