桜若葉の下で


疲れきって眠りに落ちた幸村を、隣に座った柳が自分の肩に引き寄せた。

「女子の身でよくここまで俺たちについてきたな。さすがだ、精市」

「すごい汗だ。拭いてやろう」

真田は、用意した濡れタオルを首筋にあてようとして、手を止めた。
汗を吸った白のウェアに透けて見える下着が気になるのだろう。

「フフ、難しいか、弦一郎。なら俺が変わろう」

「待て!このくらいできるわ!」

大胆にも胸元のボタンを外した真田に驚いたが、無理もなかった。柳の目にも、水色と白のストライプが透けているのがわかる。
柳は膝枕をして幸村の体を横にした。
すると、ぱちりと幸村が目を覚ましたではないか。

「なに?これ」

両手を上げて無罪をアピールし始めた真田をよそに、柳はありのままを伝えた。

「そう。ありがとう。じゃあ、このままお願いしようかな。おまえたちの相手はちょっと堪えたよ」

真田は、ほっとしながら表情を明るくさせた。
柳はピンときて、これは幸村もその気になっている確率90%と読んだ。

「精市」

「うん?」

「かわいいおまえを見せてくれないか」

これくらい直球でちょうどよかろう、と確信した。
幸村はちょっとすねた顔をした。

「俺は男だよ?」

「フフ、それをこれから確かめなくてはいけないな」

柳はするりと胸元に手を滑らせて、下着の上から小さな膨らみを揉んだ。

「あっ!だめ!全然、ないから恥ずかしい…」

足をばたばたさせて抵抗する。

「ゆ、幸村止めんか…見えてしまうぞ」

スコートの下からは何が見え隠れしているのか、柳も気になるところだった。

「弦一郎。"見せて"いるんだ。見てやらないと精市がかわいそうだぞ」

真田が膝をつかむと、幸村はぴたりと動きを止めた。
真田は生唾を飲んで、ついに膝を開いた。
泣きそうな声で幸村が言った。

「俺は男なんだよ…」

スパッツの下は、男のカタチを立体的にしていた。
しかし女物の下着を着けているせいで、真田の頭はいくらか混乱した。

「こんなので、ごめん…ちゃんと女の子になってから二人に告白するつもりだったけど…だって、女の子なら二人に好きって言えるから。女の子なら俺を愛してくれるかい?」

でも、と幸村は真田と柳の手をそれぞれ握った。

「それじゃいけない。二人とテニスできないのは嫌なんだ。やっぱり互角のテニスがしたいじゃないか。テニスもおまえたちも欲しい。迷っているからこんな醜い体…」

「馬鹿者!何が醜いものか!次に同じ言葉を吐いたら許さんぞ!」

いまにも殴りかかりそうな真田を前にして、幸村はうれしさのあまり涙があふれた。

「精市。俺たちはおまえの性別にとらわれない。ただ、テニスについては少しさみしくもあるが…」

柳は切なそうに笑って、

「そろそろ迷ってはいられない。どちらで生きるか決めるんだ。強い意志が必要になる」

真剣味を帯びた目をして幸村を見つめた。

「好きだぞ、幸村。何があっても。テニスだって手を抜くつもりはないぞ。女だからと甘えるなら覚悟しろ」

「真田、だいすき」

「む…スカートは駄目だ。ズボンにしないとテニスは認めん」

「はっは、弦一郎にはハードルが高そうだな」

「蓮二も、愛してる」

「光栄だな」

柳は再び幸村の胸を探った。

「…何か、俺にできることはあるかい?」

幸村は明らかに期待している。
お願いしているようにしかみえない彼が、かわいかった。
柳は真田と頷き合って合意を得た。
二人は、殴り合った頬の痛みを肝に銘じている。

「今の精市を楽しんでもいいか。今しかない、どっちつかずのおまえを」

「もう…変態なんだから」

幸村は気持ちよさそうに、まぶたを閉じた。
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