桜若葉の下で
幸村はうれしかった。
二人の友は、女子になりかけている自分をテニスの相手に相応しくないと思っているに違いない、と思い込んでいた。
だから、こうしてまた打ち合いができるよろこびを幸村は全身で表現した。
ただ以前と違うのは、白のテニスウェアにスコートをはいている。
今となっては、これがいいと思えるし、真田と柳の前ならむしろ、女子の中にいるよりも恥ずかしい気はしなかった。
どっちつかずの複雑な心境だ。
柳、真田と続けて相手をして、一時間ほど経った。
徐々に足が追いつかなくなる。
加えて二人の打球は重く、女子の比ではなかった。
そのうちに息が上がって、走れば簡単に届くはずのボールを見送った。
「どうした。動きが悪いぞ」
真田の言う通り、以前はもう一時間は楽々打ち続けられた。
けれど今の幸村には、真田の"風林火山"も、柳の"かまいたち"にも、対応する体力は残っていない。
いつだってテニスでは二人より優位に立っていた幸村だったから、この有り様はショックだった。
「少し休んでいるといい」
柳によってベンチに座らされた幸村は、しばらくの間、真田と柳の打ち合うのを温かく見守っていた。
(いいなぁ…俺も混じりたいな)
力強い球速、打球音、シューズのスリップ音…
頭の中では、自分が繰り出した打球を前に、立ち尽くす柳と、悔しそうに歯を食いしばる真田がいた。
(ほらね。これがいつもの俺たちのテニスじゃないか)
