桜若葉の下で
「春風に誘われてしまいそうだな」
柳は、スコートをなびかせて遠くに行ってしまった幸村をそう表現した。
幸村の心のままにするように背中を押したのは柳だったが、
(精市は少しでも後ろ髪を引かれる思いをしただろうか)
自然に女子の群れへ溶け込んでしまった幸村が悲しかった。
隣では、真田が口を真一文字に結んだまま突っ立っている。彼はこの現象をどう受け入れているのだろう。
「幸村はこのままあっちの世界に行ってしまうのだろうか」
やがて悔しそうに口を開いた真田だったが、柳の目は誤魔化せていない。多少なりとも不純な心をもっている。
「精市は可憐だな。男で終わるのがもったいないくらいだ」
柳はいっそのこと、真田も抱き込んで女としての幸村を楽しんでみたくなった。
「下着も付けていたのではないか?」
真田に答えを促すようにきいた。
ユニフォームから透けて見えた形から、スポーツブラであるはずだが、真田には刺激が十分だった。
「なに…!俺は触ってなどいない!そんなものは…そうだ、あれは事故だったのだ!」
わずかな胸の膨らみを思い出したのだろうか。
柳はうらやましくなった。
「蓮二こそ、その…覗いていたではないか」
「ははは、弦一郎に気づかれるようでは俺も相当精市に入れ込んでいるらしい。スパッツの下に何を着けているのか気にならないか?」
柳は畳み掛けるように巧みに真田を誘う。
「俺は幸村になんという…」
「人は誰でも煩悩の犬を飼っている」
頭を抱える真田に教えてやった。
追い払ってもまとわりつくその犬と、真田は必死にたたかっているらしい。
柳はちがう。珠のように可愛い幸村が、すがりついてくるのを想像できるくらいには、犬を飼いならしてしまっている。
やがて一大決心をしたらしい真田と目があった。
「蓮二、俺を殴ってくれ…とおまえは言う。しかし弦一郎。俺も殴ってもらうぞ」
