桜若葉の下で


桜の枝がうっすらと色づき始めた頃。
どことなく女子らしくなってきた幸村を見兼ねて、柳はある提案をした。 

『どうだろう。男の俺には理解できない事もある。精市、おまえを女子に預かってもらう。いろいろ体験してみるといい。おまえの心と体が、真にどちらを必要としているか…』

柳の流暢な語り口に納得し、協力を二つ返事で引き受けたのは女子テニス部だった。
幸村は抵抗を感じたが、女子テニス部は幸村を難なく受け入れた。

彼女たちの群れの中に放り込まれて、数日は借りてきた猫のように大人しくしていた幸村だった。
しかし、やる事といえばテニスだから、一週間も経つと体がうずうずしてくる。
相手が女子だから、とか関係なく思いきりテニスをしたかった。

球拾いの手を止めて顔を上げた時だった。
真っ白のプリーツスコートが目の前を走り抜けると、心を奪われた。
よく見れば裾周りにぐるっと一周、男子テニス部と同じ赤のラインが二本デザインされている。

「あら?幸村くん」

後ろから声をかけてきたのは、女子テニス部の元部長だった。
卒業後、彼女はさっそく顔を出して後輩たちの練習に混じっていた。快活な性格で、いかにも部長に向いていた。
この人もまた、幸村の事情を理解していた。

「ぁ…えと…すみません。俺、そんなつもりじゃなくて…」

幸村はあわてて球拾いの姿勢にもどった。
ミニスカートに見惚れていたと思われては困る。
そういう意味で、顔を赤くした。

「その…いいと思います。やる気が出そうで」

スコートを、かわいいなと思ったのは秘密だ。

そんな幸村の隠した本心を、ひとつ年上の先輩はあっさり引き出してしまう。
包容力のある穏やかな笑顔を幸村に向けた。
卒業すると人はこんなに変わるのか、と思うくらい幸村の目には、彼女が急に大人の女性に映っていた。

「先輩きれい」
「雰囲気変わったね」

そうやって後輩たちの関心の的になっているのもよくわかる。
女子の不思議に、憧れた。
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