一葉の写真の未来へ
「行ってくるよ」
幸村はクリアドームの中の薔薇とダリアに話しかけた。
あれから三年が経っても、色あせずに幸村の家の自室で幸村を毎日見守っている。
いつもより重たいラケットバッグを肩にかけると、玄関を出る直前にもう一度、姿見に顔を近付けた。
この春変えたばかりの髪型はもう馴染んでいるというのに、これから会う相手を想うと気持ちが落ち着かない。
家のために英国に留学していた跡部が帰国して、いよいよ今年はU-17W杯日本代表を目指して再び合宿に参加する。
久しぶりに会う恋人にこの髪型は受け入れられるだろうか。
(考えても仕方ない…もう迷いはない!)
慌てるにはまだ早い。
待ち合わせは空港なのだから、それまでにもう一度鏡を見ればいいのだと思い直すと少し余裕ができた。
玄関を出て門扉を開けると、幸村は自分の目を疑った。
「あ〜ん?」
跡部のような人物が目を細めてこちらをじっと見つめている。
「えっ…と?」
幸村は思いがけない再会にたじろいだ。
隠せるわけないのに、前髪に手をやってうつ向いた。
「ゃ…空港でって…」
「早く会いたいと思うのが当然だろ」
「いろいろ準備とかあるんだよ…」
「おめかしか?どれ見せてみろ」
跡部は幸村の手をどかすと、顎を取ってまじまじと見入った。
幸村の顔はもう真っ赤で、涙で目を潤ませている。
「い…いいんじゃねぇの」
ふいと視線を外した跡部の照れ隠しがうれしかった。
「…跡部は変わったね。大人の貫録って感じ」
いずれ跡部の家を継ぐからには、カリスマ性で相手を感銘させて、ひるませるくらいじゃないと守れないだろう。
この見た目なら、世界を相手にするのに相応しい。
「かっこいいよ。ちょっと差がついちゃったな。日本で変わらずテニスだけを楽しんでた俺とは大違い…」
三年前、英国に留学すると告げられた時から今日まで、我慢していたものがこみ上げてきたとき、
「ただいま帰ったぞ。俺の…」
彼に引き寄せられたのか、自分から胸の中に飛び込んだのかはわからない。
また一段と人知れず努力と苦労を重ねたはずのその胸に、額をこすりつけて幸村はくり返した。
「おかえり、おかえりなさい…」
「せっかくのおめかしが台無しだぜ」
初めて肌を許したあの日と同じように、跡部は髪をなでてくれた。
一方の跡部は、
(俺は三年前のスペイン戦で、具現化によって未来の幸村を見たが…現実の破壊力は半端ねぇ)
幸村の魅力にすっかり惹きつけられていた。
すぐにでも成熟した肉体を楽しみたい衝動に駆られたが、幸村の澄んだ瞳に憚(はばか)られてしまう。
「跡部。ぜったい二人とも代表に選ばれようね」
次はどんな未来が待っているのか楽しみだ。
そう言ってラケットバッグを担ぎ直す幸村に、跡部もまた想像を逞しくさせるのだった。
end
