一葉の写真の未来へ
「まさかキミと同じコートに立つなんてね」
「言ったでしょ。ぜったい負かしてやるから悔しかったら治してみればってさ」
「病人にかける言葉じゃないよ」
「でもやる気出たからここに来れたんでしょ」
越前は勝利の満足感に浸りながら、ネットを挟んだ相手を見上げた。
幸村は、首筋に流れる汗を手の甲で拭って眩しそうに目を細めた。
手術後、つらいリハビリに耐えかねて真田を遠ざけて、跡部にすがっていた頃だった。
真田は心の底からショックを受けていたようだが、歯を食いしばりながらよろよろと歩く様を知られたくなかった。
ーーーこんなんじゃ全国に間に合うわけないじゃないか!
諦めの態度や八つ当たりは、跡部が受け止めてくれた。松葉杖を放り出し、看護師の世話も拒絶したりして荒れていた。
越前リョーマが訪ねて来たのは、そんな時期だった。
「立海の幸村ってあんたのこと?」
病院の外に憩いのスペースがあって、ベンチに座っていたら声をかけられた。
見上げると、テニス少年が見下ろしていた。
「青学の一年越前リョーマって言えばわかる?」
幸村は目を見開いて衝撃を受けた。
(真田はこんなぼうやに負けたのか…!)
信じられなくて腰を浮かせた時だった。
踏ん張りが効かなくてよろめくと、両手と膝をついてなんとか転ばずに済んだ。
「ねえ、次は俺とやろうよ」
越前は持っていたラケットバッグをどさりと置くと、目の前に屈んで目の高さを合わせてきた。
(俺にはそのバッグを持ち上げる自信もない)
「あんたんとこの副武将…副部長に勝ったんだから興味あるんじゃないの」
幸村は地面の上でこぶしを握った。
「次はあんたを負かして上にいくよ。来るの?来ないの?」
差し出した手を幸村にはたかれて、越前ははっとなった。胸が痛んで、どうも何かがおかしい。
「…やるじゃん。訂正。俺があんたとやりたい」
キズだらけのテニスボールをひとつ、幸村の前に置いた。
「真田ぁ…」
「その…すごくいい試合できたんで、報告したくて」
泣く寸前の幸村にあわてた越前は、とっさに言葉を尽くす。
そこへ看護師が走り寄って来て、
「いた!幸村くん!勝手に出歩かないって約束したでしょ!」
すると幸村は叱られた子供みたいな顔をして、車椅子に乗せられてしまった。
看護師はちらりと越前を見ると、小さくため息をひとつ。
「またそのバッグ…あなた達、患者さんをあんまり刺激しないでね」
越前は院内着姿の幸村の、小さく丸めた背中を見送った。
(負けんな…負けんな!)
気づけば自分のことのようにエールを送っていた。
