一葉の写真の未来へ
病室に二人きり。
この間の事もあるから、二人とも気まずさを抱えている。でも、勝手をしているのは跡部の方だ。
(こんなに息が詰まる思いをするのは初めてだぜ…)
来てはいけなかったのだと自信を失いかけたとき、
「よく見せてくれないかい?」
たおやかな声で幸村が言った。
ドキリとして、反射的にそこにあった写真立てを手に取った。
「ちがうよ。ふふ…そっち」
「ぁ、そうか…」
仲間と写った全国優勝の記念写真よりも、自分が贈った花に目を留めてくれた。たとえ一時でも、うれしかった。
「オレンジと淡い黄色でかわいいね。俺、ダリア好きだよ。薔薇とも合うね。ちょっと意外」
「気に入ってもらえたみたいでよかったぜ」
「ありがとう。跡部…くん。この前は氷帝の部長だと知らずに俺…恥ずかしいところを見られてしまって。はっきりいって最悪だよ。だって同じテニス部ならいつかは戦わなくちゃいけないじゃないか。最悪だよ。もう来ないと思ったよ」
幸村は、じわじわと目つきと声のトーンを変えた。
「それで?王者立海の部長を偵察に来たわけかい?到底来年の関東…いや、全国大会の復帰も無理だと思っているんだろう」
怒気を隠そうともせず、跡部に向かって強い口調で言い返してくる。
それでも跡部は自分をアピールするのを忘れない。
「そんなつもりは微塵もねぇ。ただ、どんなやつだろうと気になったら、こんなものまで作って渡してみたくなった」
「これ、キミが作ったの…」
「少しでも安らげればいいと思ってる。この間は悪かった」
「まって。誰にも言えない本音をキミに八つ当たりして嫌な思いをさせたのは俺だから。その…すごく恥ずかしいけど、キミにはこれからも本当の俺を知っていてくれないかい?」
跡部は、枕頭台の写真に目をやった。
幸村は首を振った。
「だめなんだ。ふたりには知られたくない。すごく大切で信頼しているけど、だからこそ今の俺はいやだよ…」
いやなんだよ、と涙ながらに繰り返す幸村の背中をさすった。
「ああ、俺が知っておいてやる。嫌になったら俺にぶつければいいじゃねぇの。そうすればあいつらの前では笑っていられるだろ」
「ぁ、はは…それ本気かい?でも…ちょっと安心したらごめん、トイレ」
幸村はやんわりと跡部の手を払うと、泣き笑いの顔で取り繕った。
目的の場所まで肩を貸すつもりでいると、
「押してくれるかい?力が弱くてね」
幸村はナースコールを指差した。
「おまえそれくらい…」
ついさっき、真田を抱きしめていたのをこの目で見ていたから。
それにしてはすぐに看護師が飛んできたから跡部は驚いた。
「はい、面会はおしまい。幸村くん、体きれいにして点滴入れるよ」
看護師は医療器具の他に、洗面器やタオル、紙の下着を持ってきて、あっという間に幸村を"本物"の病人に仕立て上げてしまった。
こわくなった跡部が立ち尽くしていると、幸村は手のひらを振って、まるで全てを諦めたような顔をして「バイバイ」をしてくれた。
