一葉の写真の未来へ


数日後、跡部は病室の前で深呼吸していた。
今度はタイミングを間違えないように中の気配を感じ取ろうとしている。

「もしかして緊張してる?」

滝は、ドアに聞き耳を立てようとする跡部を止めた。
こんなに思い切りが悪い跡部は正直見たくない。
いつだって決断力と行動力に秀でているのが跡部なのだから。

「景吾くん?」

いきなり肩を抱かれて、手のひらで口を塞がれた。抗議しようと思った滝だったが、真剣な横顔の跡部は嫌いではなかったから、おとなしく口をつぐんだ。
大胆にも、跡部は拳ひとつ分ドアを開けた。

幸村のベッドに寄り添う男が真田弦一郎だとすぐにわかった。それが幸村の想い人であることも跡部は初対面の日にわかっていた。

あの日、テーブルの上に広げたままのノートを見るともなく見てしまった。
ノートには、いくつもの"真田弦一郎"の名前に混じって、"幸村精市"の名前も書き込まれていた。
それらは縦書きだったり横書きだったりで、そのうちのいくつかは、二人の姓名を繋げてあったりした。"真田精市"とか"幸村弦一郎"といった具合に。
見てしまった後悔と、筆圧の弱々しさも見て取れて、切なくなった跡部はすぐに目を離したのだった。

そして今、病気と闘いながらも、笑顔を絶やさない幸村は健気で可愛いなと思ってしまう。
幸村が手招きして、真田が体を寄せたときだった。
抱きついた幸村に、わずかに顔を強張らせた真田を跡部は見逃さなかった。

跡部は滝を連れてその場を離れると、物陰に隠れて病室から出て来た真田をやり過ごした。

「今日はやめたら?」

跡部の心情に気をつかったらしい滝が言った。
だが跡部は確信していた。

「バーカ。俺様があきらめるかよ」

軽く滝の額を指で弾いた。
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