愛しい花

背中に真田の体温と鼓動を感じる。
同じ様に、自分の熱も真田に伝わっていればいい。

(もしそうであったとして、だからどうするというんだろ)

自分に苦笑して、回された腕をそっと外す。

「帰ろうか」

立ち上がると右手首を掴まれる。
振り向くと、見上げる黒の瞳にぶつかった。

(何だよその目)

それはどこか苦しそうな、哀しそうな、幸村が知らない真田の目だった。
澄んだ黒の、奥に宿る熱を見た。
おそらく真田にも、同じ熱を宿した幸村の瞳が映っているにちがいなかった。

(だからって俺にどうしろというんだよ)

ふと真田に掴まれている右手を見ると、握っているブーケの花が行き場に困ってるみたいに小さく揺れていた。
頭上を走る車の轟音が、二人の答えを急かす様に大きくなった気がした。
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