come home



「準備はいいかい?しっかり腰につかまっておいで」

リョーマはヘルメットを被ると、言われた通り幸村の腰を両手でつかんだ。

「そんなんじゃ振り落とされるよ。ほら、もっとしっかり」

「わ、わかってるよ…!」 

どぎまぎしながら、今度はしっかり腰に腕を回した。
思いもよらない幸村との再会から一年が過ぎて、すでに何度もこの腰に自分の思いの丈を打ち付けているにも関わらず、このウブな気分に戸惑うリョーマだった。

お互いタンデム(二人乗り)走行に体を慣らすため、一般道をしばらく走った。休憩を挟んで、高速道路に入る前のひと時だった。

「ほんとうに来るのかい?」

ここまできて、幸村が言った。
すでに幸村の腰と背中にぴたりと体を寄せて待機しているリョーマだったから、さっさとバイクを走らせてほしくて、軽くため息をついた。
この密着はどうも落ち着かない。

幸村の家族にあいさつに行くと決めたのはリョーマだった。付き合っている事実をきちんと認めてほしかった。

「もしかして見込みないわけ?まあ、セーイチさんはすごく大事にされてそうだし。ウチみたいにはいかないのはわかるけど」

リョーマの両親は寛容だった。
南次郎は当初から変わらず息子の恋人となった幸村をますます気に入って迎え入れていたし、母親の倫子もざっくばらんな性格そのままにふたりの馴れ初めを聞き出して、幸村に同情しリョーマを激励した。

「リョーマこそ愛されている証だ」

ハンドルを握る手に力を込めた幸村から緊張の色が伝わって、リョーマは腰に回していた手を胸元の古傷に当てた。

「よくバイク許してくれたじゃん」

「そうだね。やりたいこと、好きなことは後悔しないようにしなさいって。たぶんだけど、病気になってなかったら反対されてたろうね」

「ふーん…いいじゃん。あ。でも俺、カットされたスイカなんてどう食べたらいいかわかんないよ。フォークで食べるなんてなんかヤダ」

「あっはは、なにそれ。かぶりつくより食べやすいじゃないか」

キッチンでスイカをあたりまえのように切り分ける幸村の母親の後ろ姿とか、テーブルクロスが掛けられたダイニングテーブルとか、そこに置かれた一輪挿しの花瓶とか…
見たこともないのに、そんな光景が容易に想像できてリョーマは尻込みしそうになる。

(だってこの人…さっき買ったソフトクリームもスプーンもらって食べてたし)

幸村と再会して二度目の夏がきていた。
タンデムで湘南エリアを楽しんでから、幸村の家に行く予定でいる。

「そうだ。俺からも君を紹介したい人たちがいてね。俺としてはこっちがメインなんだ」

少し照れながらお願いのポーズをする幸村を見て、すぐにピンときた。そして、めまいがしそうになる。
幸村が家族よりも認めてほしい人たちといったら決まっている…

「ちょっ…そんな急に、聞いてないッスよ!」

「家族よりも緊張しなくていいだろ?だからちょっとついでだと思って明日、顔出すだけでいいからさ。みんなびっくりするだろうなぁ」

(メインだって言ったじゃん…)

ちょっとわくわくしている幸村に、冗談じゃないと心の底から思った。

「明日は急じゃん。全員は集まらないんじゃないの」

「俺がひと声かければ集まるんだよ」

ほら、とスマホの画面を見せつけられる。
「了解」「はーい」「OK」「承知」「わかった」「かしこまりました」「プリ」

「すご…怖…」

これでは家族の方がマシだ。
家族よりも手強いであろう面々を思い出す。

「じゃ、俺のやり方で認めさせるしかないよね」

「えー…キミはプロだろ、ずるい」

リョーマは、エンジンをかけた幸村の背中にしがみついた。

「はあ…あんたどっちの味方なの」

バイクは神奈川方面を目指す。
高速道路では、バイクと幸村との一体感が楽しかった。思わず、ぎゅっと幸村の腰に巻く腕に力を込めた。幸村は、ほんの少しだけ顔をこちらに向けてしっかり頷いた。

「こわいのかい?大丈夫だからしっかりつかまっておいで」

幸村のことだから、きっとそんな風に勘違いしたと思う。走行中のバイクは会話が成り立たないのが難点だ。
このままずっと、どこまでも道が続いていればいい。強い風も、灼熱の太陽も、たたきつけるような雨だって、今の俺たちには気まぐれな空もお構いなしに走り去ってみせるから。


end

「come home」…心地よさや安心感を得るために、ある状態や感情に戻るという意味も含む。
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