come home


「幸村さん」

ソファーで横になっている幸村は、浅い眠りについているようだ。
薄く開いた唇から時折、ふぅっと息を漏らしている。
ほろ酔いのせいか、消えない心のわだかまりのせいかはわからない。
近寄ってその顔を見ている内に、南次郎とのテニスを楽しいと言った幸村の笑顔を思い出して、胸が苦しくなったリョーマだった。

「親父、アメリカ行ったし、どうすんの」

「そうか…そんなに遠くに」

思ったより弱々しい幸村の返事に、リョーマは言葉を選んだ。

「どうせすぐ帰ってくるし。そしたらまたここでテニスすればいいじゃん」

あまり本心ではなかったけれど、幸村を元気づける方を選んだ。

「五感…きっと嫌われちゃったんだ。いつも笑って受け流してくれてたのに、南次郎さん…ごめんなさい、ごめんなさい…」

「俺だって平気だよ。見えなくたって、聴こえなくなったって、あんたのボールをきっちりあんたに返してあげるよ」

リョーマはムッとして、今も目を閉じたままの幸村にはっきりと言って返した。

「…帰る」

「お酒、入ってるでしょ」

体を起こしかけた幸村の肩ををつかまえた。

「電車で…」

「あんたさぁ…アメリカじゃ襲われるよ」

「ここは日本だ。男が酔ってフラフラしていても冷たい視線を向けられるだけさ」

「どうかな。幸村さんは」

肩を押して幸村をソファーに倒した。
よく見れば、幸村が着ているTシャツはリョーマが去年置いていったものだった。左胸にワンポイントが入った白のTシャツ。
いつまでも自分がチビだと思っていたリョーマは、意外な気持ちで幸村を眺めた。

「着れるんだ、それ」

「…?着れたけど。あ、勝手に借りたよ」

「こっちはなに?まだ使ってるんだ」

幸村のハーフパンツに視線を移して聞いた。

「そうそう。この間ね、久しぶりに遊んだやつも履いててお互い笑ったんだよ。捨てられないよなって」

幸村は嬉しそうに笑った。
中学時代のテニス部のハーフパンツ。それだけでこんなに幸せそうな顔をする。
懐かしい気持ちはわかるが、中学一年が終わるとアメリカに渡ってしまったリョーマには、部活動への思い入れには欠ける。

「なんかいいっスね。そういうの」

「うん。ぁ…ぼうやはまた違うかな」

「気にしなくていいっス。俺には今、あんたが嬉しそうにしてくれただけで。ありがたみを感じたから」

ハーフパンツの紐の結び目を探った。

「ちょっと…」

「バイクも電車もだめ。泊まりで決まりね」

「どういうこと…?え、ぼうやは俺が好きなのかい?」

「ぷ…はは!なにそれ、そんなことふつう聞く?」

「だって大事だろ…こんなのは、好きじゃないとしたらいけない。それを笑うなんて…」

すでに半分ハーフパンツを下ろされている状態の人が言うセリフかよ、と思いながらリョーマは開いた口をあわてて引き結んだ。
幸村の目は真剣だったからだ。
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