come home
玄関に知らないテニスシューズがあった。
居間のドアを開けたら、とんでもない人がいた。
「おー青少年のお帰りだ」
「なにしてんの」
「んー?愛情確認?」
「ちょっとどいて」
リョーマが父親を突き飛ばしてでも近づきたかった相手は、「やあ」とのんびりした口調であいさつした。
「何されたの」
「スイカをごちそうになったんだ。俺が食べるの下手みたいで。ほら、実家はカットしたのを食べてたから」
もうベトベト、とその人は両手を広げてちょっと舌を出した。
「南次郎さんに拭いてもらっちゃった」
と、はにかんだ顔をした。
「拭いてあげちゃった☆」
息子の怒りを誘うように、南次郎がベロを突き出した。
「ふふ…今日はね、キミに渡したい物があって来たんだ。届け先が"越前"でまさかと思ったけど。そのまさかだったね。はい、お姉さんからお花のお届けもの」
幸村から花冠のイラストが描かれた箱を受け取る。
宛名を"越前リョーマ"にしなかったのは、プロテニスプレーヤーとして有名人になった為の配慮だろう。
箱の中身を取り出すと、元気いっぱいの向日葵が主役のフラワーアレンジメントだ。メッセージカードが付いている。
"そろそろ日本に帰っている頃と思います。
リョーマさんに似合うお花を見つけたので贈りますね。
菜々子より"
「きれいなお姉さんだね」
「え、会ったの」
「アルバイト先の花屋で。その時はまさかぼうやのお姉さんなんて知らないけど。テニスしてる中学生の男の子に贈りたいって。夏…テニス…で中学生だろ?向日葵がかわいらしくていいんじゃないかなって勧めたのは俺だけど」
「かーわーいーいー」
「親父は黙ってて」
リョーマが中学時代に同居していた従姉は、今は独立してたまにこの家に南次郎を心配して訪ねてくる。
そういえば、神奈川に住んでいるとか聞いた気がする。
「もう…俺のこと、まだ中学だと思ってるんだから」
リョーマがプロ生活の合間を縫って帰省すると、家はきれいとはいえない状態だ。
南次郎の一人暮らしだから仕方ない。
空いた缶ビールとスポーツ紙、グラビア雑誌まで広げてある。
さっきまでごろ寝していたような二つ折りの座布団は、相変わらずで…
「ん?」
どうしたんだい、というような顔をした幸村精市と目が合った。
「別に」
こんな有様な部屋に、なぜこの人がいるのかと思うと恥ずかしかった。これが桃城なら、どんなにか気楽に済んだだろう。
ばつが悪くて、ティッシュ箱ごとテーブルの上を滑らせることしかできないのが悔しい。
「どうもありがとう」
幸村は、そんなリョーマの態度を何とも思わないのかにこりと笑ってティッシュで口元を押さえると、しなくてもいいのにテーブルまで拭いていた。
