幕が開ける


真田は照明を見上げた。
メンバーの協力でここまでの演出はうまくいっていたが、もう少し幸村の姿を目に焼き付けていたかった。
がっかりしていると、幸村の手が真田の頬を探し当てた。

「王子様は誓いのキスをするんだよ」

自信を取り戻した幸村の誘い文句に真田は赤くなったが、照明が落ちていて顔は見られていないだろう。
この状況はかえってお互いにとっていいと考え直した。

「好き。真田が大好きだ」

幸村が、やわらかく囁いた。
真田のキスが衝動的になったのは、演技ではない証拠だ。歯と歯が当たったし、唇から何度も外れたりした。

「ぁは!全然だめだな。さっきまでの名演技はどうしたんだよ」

「…おまえのアドリブにはついていけん。仕方なかろう」

想い続けた相手に大好きと言われて黙っていられる男はいない。現実はこんなものだ。
だとすると、物語の王子様の相手への愛情はそれほどでもないなと思う真田だった。

「じゃあほら、もう一度。待っててあげるから」

しかし幸村にそう言われてしまえば、王子様にならないわけにはいかない。
真田は今度は欲張らずに、型通りのキスをした。


「スンマセン!遅れました…あれ、なにやってんスか先輩たち。照明つけますよ」

そこへ、事情を知らない赤也が気を回して照明をつけた。
赤也が舞台上の役者に驚いたのは言うまでもない。


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