幕が開ける


部室のガラスショーケースに収まる数多くのトロフィーや表彰盾。栄光の証のそれらの中に、つい先日、真田の手で収めたばかりの盾を見つめた。

(いじめられないだろうか…)

実はこれは優勝旗も飾れるショーケースで、棚の高さと取り外しが自由に調整できる。優勝旗だけではなく、トロフィーや優勝カップなどを一台の中で一緒に飾ることができた。
俺と真田の代で二連覇を成し遂げた時、顔も知らない監督が、いたく感激したらしく贈呈してくれたものだった。
正面から見て右側が優勝旗を飾るスペースだ。

(とうとう帰ってこなかったね)

スルスルとガラス戸を開ける。背後から、その手首をつかまれた。
ガラスに映る真田が、手をつかんだまま俺のウエストに両腕をまわしてぴたりと体を合わせた。つまり、俺の背中に真田の胸が、ね。

俺は、優勝旗のスペースを仕切って棚に変えようとしていた。
…とは言えない。全校集会の壇上で、あんなに熱烈な応援をされながら、俺はいつまでふて腐れているんだ。
やめた。
そうなると、俺の意識は"おへそ"の前で組まれた真田の両手にもっていかれた。

(おんみまるごと…御身丸ごと…)

真田の手がわずかに動いた瞬間、空き地で言われた台詞と声色がまざまざと思い出された。
頭では、いざとなったら力で抵抗できるだろうかと本気で考えても、俺の体は身じろぎしないことを選んでいた。

「こうしていると、まるでガラス越しに見る赤ん坊のようだな」

くくくと真田が笑って、つよく俺の腰を引き寄せた。

「こうやって並べてみると、これに一番愛着がわくな。そうだろう幸村。これからはじまるのだ。ここからはじまる、命のようだ。まるで俺とおまえの…」

薄々気づいていたけれど、真田は案外ロマンチストだ。自分の夢や理想を追いかける純粋な心を持っているんだよなぁ。俺にはちょっと真似できない。
だからって"準優勝"の盾に何を重ねてくれてるんだ。

でも、いつからか俺は、そんなおまえの心に描いたシナリオに絆(ほだ)されてしまっているけどね。
ほら。また…あの夜みたいに、俺のからだの命を司る器官がうずうずしてる。
なあ、真田。おまえには、ありきたりの言葉じゃ、とっくに足りないんだ。
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