空想よりもおもしろい

校門を出た幸村は、横断歩道を渡り辺りを見回した。

(まだ近くにいると思ったけど)

校庭からここまで一気に走ったから、息が上がってしまった。仕方ないので、歩いて行く。
跡部とは、去年の3月に会ったきりだった。彼はすでに氷帝の部長として有名で、立海にもその活躍は耳に入っていた。
幸村も部長でなくとも公式戦で負け知らずだったが、今まで跡部と関わる事はなかった。 だから、去年跡部がひとり幸村を訪ねて来た時は驚いた。有名人がすぐそこに居るなんて知らないから、はやる気持ちを抑えて声をかけたのを今でも覚えている。

(あの時の俺の態度、酷かっただろうな)

くすりと思い出し笑いをした幸村は、すぐ隣に佇む人物に気づかず歩き続けたが、

「おい」

急に腕を引かれて、相手を見た。

「跡、部…?」

あまりに近距離だったから、少し距離をとろうと後退ったが、再び手を引かれて幸村は困った。

「…もう帰ったかと思ったよ」

何となくどこに視線を合わせたらいいのかわからなくて、俯いて話した。
跡部のテニスシューズが、格好いいなと思った。

「お前が言ったんだろ」

「あ、」

確かに帰れと言ったのは幸村だが、結局、幸村は後を追い、跡部は帰らなかった。

「…ごめん」

「いいから、行くぞ」

「え、どこに…」

戸惑う幸村の鼓動は高鳴っている。先を行く跡部の背中を慌てて追った。
すると、振り返った跡部が幸村の目を見て言った。

「言っても逃げんじゃねぇぞ」

「…うん」

幸村からテニスバッグを取って、自らの肩に掛けると、耳に低く囁いた。

「あの時の続きがしたい」

先を行く見馴れたテニスバッグと、真田とは違う背中のかたちを幸村は不思議な気持ちで追いかけた。
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