幕が開ける


「幸村、もうよせ…」

「………」

「その…そう長い間まじまじと顔を見られると落ち着かないのだが…」

かすれた真田の声が遠く耳に届いた。
ぼんやりとしていた意識を取り戻すと、目の前の真田は顔を赤くして視線を泳がせていた。
俺は今、何をしていた?

「これでもはじめてなんだ…どうだい?俺のキスは」

真田がこんなに真っ赤になっているんだから間違いない。ちょっぴり自信を持って聞いてみた。

「ぅむ…ん?き、キス…をしたのか?俺に、幸村が…?」

俺は再び目を閉じた。
なあ、もう一度しようよ。
今度はもっとおまえから…
すると真田が焦ったように俺の肩を揺すった。

「幸村、しっかりせんか!俺はまだおまえから何もされていないぞ!ひとりで勝手に終わらせるな、幻想に浸るのはよさんか!もう一度聞く。俺に何をしたのだ」

「うん…キスをしてみたくなってね。やってみたら、なんだ全然できるじゃないか。それで今度はもっと確かな感覚が欲しくなって。見慣れたはずのおまえの顔が俺の心をくすぐるんだ。だから、そうだな…まるでおまえを食べちゃうみたいなキスをした…?」

そこまで声に出してから、手のひらで顔を覆った。
どうやら俺は、現実を超えてしまったらしい。

「幸村、顔を」

俺の手を剥がそうとする真田の力に抗う。絶対に見せるものか。これ以上恥ずかしい思いをしたくない。

「おまえだって顔を赤くしてたじゃないか…」

「な…赤くもなるだろう!おまえにじっと見つめられれば!いろいろ堪える俺の身にもならんか…」

真田の声が裏返った。
長い付き合いだけど、こんな声ははじめて聞いた。
指の隙間から盗み見れば、額に手を当てて髪をかきあげた真田が、唸るような溜め息を吐いていた。

ああ、今ならわかるよ。
"武将ごっこ"でなければ伝えられなかったおまえの気持ちが。
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