幕が開ける



「そろそろお開きにしましょうか」

名残惜しそうにしながらも時間を気にしてくれるメンバーがちゃんといる。
集会所を出る間際になって、赤也がまた涙ぐんだから皆で笑った。

「これ以降の寄り道は許さんぞ。気をつけて帰るように」

真田の再三の注意をうっとうしく思う順に出ていくメンバーたち。
自然といつもの部室のように、俺と真田が最後に残る。

「ではまた学校でな。精市も」

俺に向けて、薄い唇にうっすら笑みを残す。
優秀なこの参謀はたったそれだけで、皆の気持ちを集約して俺に届けたに違いなかった。

「うん。お疲れ」

彼は俺の返事にうなずくと、

「後は頼んだぞ。弦一郎」

今日は部誌も書かないし施錠管理もないのに、いつもと変わらずそんな事を言い置いて帰って行った。

粗方皆で片付けたから、これといってやる事はない。
ただ、空き地での一件には触れたくなくて、間が持たない俺は、先に誰かが拭いてきれいな座卓を布巾で行ったり来たりさせた。
そうしながら、なんで皆と一緒に帰らなかったんだろうと自分に問いかけていた。


『御身丸ごとを切望しております』

確かに真田はそう言った。
聞き慣れない言い回しに問い質すより早く、

「それともう一つ」

立ち上がった真田が一歩近寄った。

「今、無性に欲しくなりました」

額に手を伸ばされてはじめて、試合後ずっとヘアバンドを付けたままだったのを知った。
それだけ、あの試合は衝撃的だったという事か。
ヘアバンドを取られて、頭がスッと軽くなる。
まったく、誰か指摘してくれてもいいのに。
真田だって…

見れば、汗を吸ったそれを迷わず鼻先に持っていく。驚いて目を奪われている俺に、真田の視線が絡んできた。

「次の台詞はおまえだぞ、幸村」

「ぁ…そんな物で、良ければ…くれてやる…」

「有り難く頂戴致します」

「………」

「幸村様」

もう武将になりきれなくなった俺は、頼りなげに真田を見たと思う。

「幼き頃からずっとお慕いしておりました」

これで前の台詞の意味がはっきりして、一気に恥ずかしくなった。
絶対俺の方が恥ずかしいのに、街灯に照らし出された真田の耳が破裂しそうに真っ赤だった。
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