幕が開ける


その後輩が涙目を向けて言ったんだ。

「最後のお願いっす…俺、このまま帰りたくないっーか…まだ先輩らと一緒にいたいっㇲ…だから、なんか食べていきましょーよ!ね!そうしましょうって…!」

俺と真田以外は、賛成といった様子だ。
こんな風にせがまれたら普通は聞き入れてやるよね。
彼の"最後のお願い"は何度目か数え切れないけれど。
でもさ、今日という日は特別だから。
俺はちらと真田に目配せした。

「たわけた事を言うな!」

かわいそうに、後輩がびくりと肩を震わせた。
どんな時でもカタイ奴だ。
呆れて溜め息を吐くと、真田が続けて言った。

「…外食では騒がしくて迷惑がかかる。よって一席設けてあるからそこへ行く。各自家に承諾を得るように」

「イエッサー!」

真田からの思いがけない提案に、皆が沸いた。

「聞いてないよ」

カッコつけたみたいに先を行く真田の背中に問いかける。
少し足を引きずるようにしているのは勝利の代償だ。
その痛みに悔いはないんだろうな。

「お爺さんが町内会長をしていてな。集会所を手配してくれた。町内のご老人が料理をこしらえてくれている」
 
今日が全国大会の決勝だと知っていて、孫自慢をしたに違いなかった。
ここでもまた、町内挙げて凱旋を待っていたのかと思うと、やるせない気持ちでいっぱいだった。

「いきなりですまん…いつ言い出そうと困っていたところだったのだ」

「ふふ、赤也に助けられたわけだ」

「ああ、これでご厚意を無駄にしなくて済む」

「赤也の試合、褒めてやれよ?おまえに褒めらるのが一番なんだから」

「わかっている」

前を歩く真田をそのままにして、立ち止まって皆に向かって言った。

「承諾は取れたかい?帰りは好きな時間に抜けて構わないから」

俺も家に連絡しよう。

"残念ながら負けてしまいました。
3年間応援してくれてありがとう。
部員で打ち上げするので遅くなります。"

夕飯は勝っても負けても、俺の好きな魚を焼いてくれるって言ってたっけ。
ありがとう、ごめんね。
でも魚は明日に取っておいてくれるよね?
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