幕が開ける


ーーー光陰 矢 の 如し

と言ったところかな。

たった数時間前の景色とは打って変わって、抜けるような空に夕焼けの赤が広がっている。
電車に乗って、ここから先が神奈川県とわかると、車窓を覗く皆の顔がなんとなくホッとなったのがわかったよ。

学校に報告に戻ると、居合わせた先生たちが出迎えてくれた。テニス部とは縁のない先生もいてびっくりしたのと、残業中かも知れなかったのに、こんなに集まってくれて申し訳ないなという気持ちと。
そこではじめて気がついた。
俺たちは学校を挙げて期待されていたんだなという事実に。


ーーー時間の流れが矢のように早く、過ぎ去ってしまった時間は戻ってこない


この日ばかりは、慣れ親しんだ帰り道も、なんだか侘しいと感じてしまうのは俺だけじゃないんだろうなぁ。

髪が埃っぽくてキシキシする。
夏は特にそう。小学生までは別に気にならなかったけど、今ではすっかり、家に着いたら真っ先にシャワーを浴びたいなと思いながらの帰り道になった。
いっそのこと、高校に上がったら短く切ってみようかな、なんて思い始めたのはいつからだっけ。まだ勇気がないから実現するかはわからないよ。


「幸村」

すぐ横から真田が顔を出してきて、親指を立てて背後を指し示した。
見れば、後ろを歩く皆と距離が空いていた。

「みんなー!付いて来てるかー?」

そうやってリーダーっぽく呼びかければ、

「イエッサー!」

返ってくる返事は、大丈夫。今朝と変わらない。
変わったのは、期待のルーキーが、一度は落ち着いた泣き顔を再び露わにしていたくらいだ。
慰めるより、からかうのを選んだ先輩たちに囲まれている光景が、なんだか素敵だなと思った。
いつも強気な後輩にそんな顔をさせた責任は俺にあるにも関わらず、ね。
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