距離感を教えて


幸村との勉強会は一時間ともたなかった。
解説の合間にちらりと目をやれば、炬燵のテーブルに頬杖をついて眠っている。その目元に疲れの色が見えて、真田はじっと横顔を見つめた。
立海での部活と勉強の両立は想像以上に厳しい。
しかし皆同じ条件の下、振り落とされまいと日々を送っている。


「俺、塾に通おうかな」

公園からの帰り道、幸村が突然そんな事を言い出した。

「勘違いするなよ。成績不振な訳じゃないから。ただ、損はないしさ」

ーーー放課後の部活はどうする

「うーん…たまに休んだりするかも」

ーーーたわけた事を言うな。部長のおまえがそれでどうする。それに…俺との時間はどうなるのだ

割と本気で聞いた。

「もちろん減るだろうね」

幸村は、胸に抱えた紙袋の中の鉢花に鼻を寄せて言った。

ーーー俺は真剣だぞ

手首を掴んで気を惹く。
少し驚いた様子の幸村は、気まずそうに目を伏せた。

ーーー俺は嫌だ。今でもおまえとの時間が足りないのに、これ以上は気が滅入るぞ

幸村は、鉢花を抱きしめるようにして身を小さくさせた。

ーーー俺が教える。おまえの為ではない。俺の為に付き合ってもらう


そのまま幸村の手を引いて自宅に連れ帰ったのだ。
まずは外の冷気で冷えた体を温めた。ふたりして並んで炬燵に入って、試験に出題された内容を振り返っていたところだった。

真田は、テーブルに置かれたマグカップを遠ざけると、幸村の背中にそっと抱きついた。

「ココアなんてな…この家で飲む者はいないのだ。おまえが来て、どんどん消費してくれなければ困る」

もう目を覚ましているだろう幸村に言い聞かせる。

「来月は誕生日だろう。それでひとつ思い付いたのだ。聞いてくれるか」

「……」

「おまえの生まれた時、俺はすでに生後10ヶ月になろうとしている。つかまり立ちもしたし、手づかみで食べ始めた。公園で五感を刺激しに連れて行ったと両親が言っていた」

「へぇ…すごいな」

「わかるか?だから、それを考えればだな…それだけの差があるのは言わば宿命。つまりおまえは俺なんかよりもよくやっている」

幸村の手に指を絡めた。
同じ時期からラケットを握り始めたにしては、自分の手よりも薄くて柔らかい、そんな幸村の手だった。
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