距離感を教えて
幸村が学校の近くにある行きつけの花屋に顔を出すと、店主が待ってましたとばかりに店の奥から鉢花を持ち出した。試験期間中に入荷したこの鉢花は、店主の厚意で二、三日取り置きしてくれた。
幸村が受け取りをあえてテストが終わってからにしたのは、この日を楽しみにして勉強を頑張るためだった。
「ありがとうございます。おかげで試験を乗り切れました」
笑顔で花屋を後にして横断歩道を渡る。けれど、橋を渡った先にある公園を訪れた頃には、うきうきした気分も幾らか沈んだ。
二月の夕方だ。
寒さのせいか、遊具で遊ぶ小さな子供の姿はない。少し先のエリアで、小学校高学年くらいの男の子たちがバスケットボールで遊んでいるだけだった。
周りに誰もいないのを確認してからブランコに乗る。鞄からノートを取り出した。
テストの解答に納得がいかなかった部分を探す。
(え…間違った。これはあってる…?)
そんな作業を繰り返していると、隣のブランコに乗る人がいる。
「真田!」
慌ててノートを仕舞おうとしたが、うまく入らなくて諦めた。
真田が手を伸ばしてノートを取った。
「不思議だな。おまえのノート…初めて見たぞ」
そんなはずはないと思いながらも、案外そんなものかも知れないなと考え直す。
あんまりじっくり見られると、恥ずかしくなってきた。クラスメイトに見せるのとはまるで違う心の動きに、そわそわした。
ノートを捲られる度に真田の横顔も見ていられなくなった。
まるで自分がノートの一部になったようだ。セックスの時、舐めるように眺めてくる真田の熱い視線を思い出す。
「何をそんなに恥ずかしがっている?」
目の前に立った真田が、前屈みになって幸村の乗るブランコのチェーンを握った。
「別に、そんなんじゃないよ」
情けない。真田に対して心のどこかで拗ねてしまっている自分が。
