距離感を教えて


試験期間が終わった。
浮かれる生徒が行き交う廊下で、真田は幸村が現れるのを待っている。

『さ…真田』

呼ばれて見ただけなのに、相手は怯えた目をした。

『幸村が』

その名前に過剰に反応してしまうのはいつもの事で、おそらく目の色が変わったのだろう。
テニス部員ならそんな真田の変化に慣れていても、相手の男はそうはいかない。
何か勘違いして、しどろもどろに言い直した。

『ゆ、幸村くんが…伝えてくれって言われて。用があるから先に帰ってくれていいって』

「何だと?それは本当だろうな」

相手に当たっても仕方ないのに、つい勘繰ってしまう。

『だから、これも預かったんだ』

無言で二つ折りのメモ用紙に目を通すと、真田の目に温かみの色が差す。
紛れもない幸村の筆跡だ。

『一応言っておくけど、俺にはそんな字は書けないからな』

疑われても困ると言いたげだ。
色白でひょろりとした体格の、見るからに文化系に属していそうな男だった。
幸村が築いた交友関係が垣間見えた。

「待て。他には」

立ち去ろうとするのを引き止める。
相手は少し考える素振りを見せて、

『もう少し幸村を自由にしてやってもいいんじゃないのか?いつも君の事を気にしてるみたいだから』

言ってしまってから、思わず真田に意見してしまった気後れを感じたのだろう。逃げるように去って行った。

真田はもう一度、今度はじっくりと文字を目で追う。

"手紙でも書かないと信じないと思って。
 野暮用だから探さないでくれ。  
                精市"

"精市"と下の名前で記されているのが、如何にも自分宛てのようで嬉しくなる。
整った字というよりは、読みやすい幸村の筆跡を親指の腹でなぞった。
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