距離感を教えて
「しまった!」
飛び起きた幸村は、必要最低限の支度をして自宅を飛び出した。昨夜、慣れない徹夜をして試験対策をしたのがいけなかった。
そんな状況の中、真っ先に頭に浮かんだのは、
(真田は?!)
いつもの待ち合わせ場所にいるとしたら、彼も遅刻の巻き添えになる。
ふたりは名門テニス部のトップ2であり、真田は風紀委員の肩書きもある。
走り込みには自信がある。
このまま速度を落とさなければ間に合うだろう。
それに真田だったら、すぐ隣にぴたりと付いて来られる足を持っている。
走りながら想像する。真田と共に冬の通学路を走り抜けて、無事に校舎に着いたら顔を見合わせて笑う自分たちを。
砂利の駐車場の前に来た。
当然のようにいるはずの真田がいない。
呼吸が苦しいのと、見捨てられたような胸の痛みが、幸村から再び走り出す気力を失わせた。
空に向かって白い息を吐いた。
チュチュチュ、と近くで雀が鳴いた。この場所は毎朝雀をよく見かける。後を追うように砂利を踏む音がして、目を向ければそこに真田がいた。
「おはよう。遅かったな。おまえを待つ間に少し雀との距離を縮められたぞ」
ズズっと鼻水をすすりながら腕を組んだのは、冷たくなった手を温めるためだろう。隠すように両手を握り込んでいた。
こんな時でも制服のポケットに手を入れようとしないのは彼らしいなと思った。
理由もなく泣きたくなった幸村は、下唇を噛んで真田を見つめた。目が合うと、またズズっと鼻を鳴らして笑いかけてくれた。
「ああ。大丈夫だ。俺とおまえの足なら間に合うぞ」
思った通り、真田はぴたりと付かず離れず並走した。しかし幸村の方がすでに走り続けて来た分、疲れている。自覚は無くともペースは落ちていた。
それを悟られないように付き合うのが、真田の良いところであり悪いところだ。
教室の席に着くと、寝不足の瞼を閉じて早い鼓動が落ち着くのを待った。
(真田…おはよう。ありがとう、ごめん…)
幸村は、面と向かって言葉にできない自分がもどかしかった。
