距離感を教えて
整然とされた殺風景なこの室内に幸村を連れ込んで、真田はまず自分のネクタイを緩めた。
風紀委員が使用しているだけあって、普段委員が車座になって集う広い机の上は鉛筆一本も転がっていない。
試験期間中は委員会活動も休みである。信用の厚い真田は施錠管理を任される立場にあった。
机に腰掛けている幸村が、ふと言った。
「おまえのその仕草…見ているとすごく気持ちがいいんだ」
手を伸ばして、真田の緩んだネクタイの結び目に指をかけた。
「またおまえは…わからん事を」
「だって本当なんだから仕方ないだろ」
真田はそれには答えずに、黙って唇を重ねた。
「こっちの方がよかろう」
いきなりで悪いが、時間がない。
跪いて幸村の腿に手を置くと、自然と足を開いてくれる。
ズボンのポケットに何か入っている。
「ああ、飴をもらったんだ。前回のテストでも同じのをもらって舐めたら、点数がよかったんだよ。だからまた試してみようという事になってね」
「幾つかもらったから真田もどう?」と、ポケットを探ろうとした幸村より先に、無理やり手を突っ込んだ。
こんなちっぽけなものにまで俺の心は乱されるのかと思ったら、腹が立った。
真田は、過去に一度だけ幸村の成績表をこっそり盗み見た事がある。
テニス部員同士でその話題になった時、誰もが幸村は成績優秀だと勝手に結論付けた。
幸村は肯定も否定もしないまま、「まあ、柳と柳生の次くらいなら狙えるかもな」ともっともらしく言った。皆うなずいて、異を唱える者は誰もいなかった。
その時は確かに真田も、当たり前のように幸村には敵わないだろうと疑わなかった。テニスだけでなく、勉強の成績も彼の方が上手である事に、一種の安心と憧れを抱いていたのだ。
幸村の成績表が置き去りにされていた。
気が付けば、周囲に誰も居ない状況だった。
いけないと思いつつ、興味が勝って手に取った。
