距離感を教えて
クラスメイトと購買に寄っていた幸村は、理由をつけてその場を離れた。注がれ続ける視線にとうとう居たたまれなくなったからだ。
昼休憩の賑わう購買を抜け出して、先ほどまで目当ての人物が佇んでいた辺りを探した。
見つけたのは、その場を去って行く後ろ姿だ。
けれどその歩みは遅いから、幸村は思わずにっこりした。
「真田?」
追いついた背中に声をかけても、見向きもしない。
「なんだよ。テスト期間中ずっと俺のこと見に来てたくせに。今だって、まるで見張られてるみたいだ」
幸村は、休憩毎に真田が教室を覗きに来ているのに気づいていた。
気づいていながら、知らないふりをしてクラスメイトとのやり取りを止めなかった。
(一度だけ、一瞬目が合ったのがいけなかったかな)
その時の真田の目が異質で、咄嗟にクラスメイトに笑顔をつくって話を振ったのだ。
その後そっと廊下に視線を向けたら、もうそこに真田は居なかった。
「見張られているだと?」
ぴたりと足を止めた真田が、前を向いたまま言った。
「見張られるような…何か心当たりがあるからそんな捉え方をするのではないのか。俺はただおまえを見ていただけだ」
「獲物を捕らえるような目付きだったけど」
こわくてね、と幸村はわざとらしく両腕を擦った。
もちろん、真田に恐怖を感じたわけではない。ただ、あの目に心を射抜かれて、負けじと彼の心を惹きつけたかった。
「そうか。腹が減っては午後からの試験に差し支える。来い」
強い力で腕を掴まれて引っ張られる。
幸村は胸がきゅうっとなるのを感じながら、
「痛…馬鹿力…」
筋と血管が浮き出た真田の手の甲を見つめて呟いた。
