空想よりもおもしろい
人を待たせる事はあっても、待つ事を知らずに育った自分が恨めしい。
この時間をどう過ごしたらいいのか、跡部には未だにわからなかった。
しかもこんな、なんの面白味もない道端。
こんな姿を家の者が見たら、閉口するか、慌てふためくか…
「何考えてるの」
突然声をかけられる。
見ると、すぐ目の前に待たされた相手がいる。 詫びの一言もない。
「……」
普段の跡部なら、鋭い言葉で相手を罵倒するか、まず待ったりはしない。
そもそも待ち合わせ場所は跡部が指定するから、こんな道端ありえない。
否、今回は別にアポを取っていた訳ではないのだが…
跡部が大人しく黙っていれば、そんなものは構いもせずに、幸村は歩き出す。
「おい、ラケットはどうした」
その足を止めるために、出た声がこれだ。
全く跡部らしくない。
幸村は、ちょっとだけ振り返って、
「置いて来た。何?まさか俺と打ち合いたいわけじゃないだろ?」
そう言いながら先を行く幸村に、仕方なくついていくしかない。
春といってもまだ3月の始め。
風が吹けば肌寒かった。
立海指定のマフラーが、幸村の後ろ髪を少し隠している。
ラケットを部室に置いて帰るような奴が新部長で、立海はいいのだろうか。
てっきり真田あたりが部長に躍り出て来ると、跡部は思っていた。そうすれば、あの時代錯誤の人物を蹴落として邪魔者が居なくなったところで、手塚と闘いたいと考えていた。
(予定が狂った)
跡部は頂点しか眼中にないから、副部長の真田には用がなくなる。
しかしこの幸村…
どうもこの顔立ちを見ると、跡部の中の闘争心が削がれていく。
立海の情報を得ようと、跡部自ら新部長になった幸村を誘ってみたものの、正直何もわからない。奴の部長像も、奴自身も… 跡部がどんなに挑発しても、暖簾に腕押し状態だ。
「…ぉっと」
「危ねぇ!」
歩道ブロックの上を渡り歩いていた幸村が、僅かにバランスを崩した。
咄嗟に彼の腕を取って、歩道側に引く。 すぐ横を車が通り過ぎていった。
「ちっ、そんな所歩くんじゃねぇ」
跡部が、他人に対してこんなに気を使った事があっただろうか。
というより、幸村という人間が掴めていないから、どう接していいのかわからないでいる。
「手、痛いんだけど…」
「悪い…」
跡部は謝ってから思った。 そもそも車に轢かれるところを助けてやったではないか!
イライラがピークに達する寸前、
「あ、そうだ。これよかったら」
幸村は、鞄から取り出したものを差し出した。
「あ~ん?」
小さなチェック柄の紙袋だった。
とりあえず受け取ってみる。
「君の口に合うかわからないけど。」
封をしてあるシールを剥がして中を覗く。
甘い香りが広がった。
「昨日、妹の付き合いで作ったから。クッキー」
(妹がいるのか)
跡部が紙袋を手にしたままその場に立ち尽くしていると、幸村はまたひとり勝手に歩いて行く。
今度は、どこかの家の花壇に咲く花をじっと見ている。 風にさらわれそうになるマフラーを右手で押さえながら…
跡部は、その様子を眺めていた。
トクン…
次の優勝は氷帝がもらう。
奴を部長に選んだ事を後悔させてやる。
トクン…トクン…
勝つのは俺様だ、幸村。
覚えておけ、幸村。
お前のテニスを見切ってやる。
「跡部、早く来いよ!」
トクン…
「これ、もうすぐ咲くよ」
トク、
「お前、下の名前は」
この時間をどう過ごしたらいいのか、跡部には未だにわからなかった。
しかもこんな、なんの面白味もない道端。
こんな姿を家の者が見たら、閉口するか、慌てふためくか…
「何考えてるの」
突然声をかけられる。
見ると、すぐ目の前に待たされた相手がいる。 詫びの一言もない。
「……」
普段の跡部なら、鋭い言葉で相手を罵倒するか、まず待ったりはしない。
そもそも待ち合わせ場所は跡部が指定するから、こんな道端ありえない。
否、今回は別にアポを取っていた訳ではないのだが…
跡部が大人しく黙っていれば、そんなものは構いもせずに、幸村は歩き出す。
「おい、ラケットはどうした」
その足を止めるために、出た声がこれだ。
全く跡部らしくない。
幸村は、ちょっとだけ振り返って、
「置いて来た。何?まさか俺と打ち合いたいわけじゃないだろ?」
そう言いながら先を行く幸村に、仕方なくついていくしかない。
春といってもまだ3月の始め。
風が吹けば肌寒かった。
立海指定のマフラーが、幸村の後ろ髪を少し隠している。
ラケットを部室に置いて帰るような奴が新部長で、立海はいいのだろうか。
てっきり真田あたりが部長に躍り出て来ると、跡部は思っていた。そうすれば、あの時代錯誤の人物を蹴落として邪魔者が居なくなったところで、手塚と闘いたいと考えていた。
(予定が狂った)
跡部は頂点しか眼中にないから、副部長の真田には用がなくなる。
しかしこの幸村…
どうもこの顔立ちを見ると、跡部の中の闘争心が削がれていく。
立海の情報を得ようと、跡部自ら新部長になった幸村を誘ってみたものの、正直何もわからない。奴の部長像も、奴自身も… 跡部がどんなに挑発しても、暖簾に腕押し状態だ。
「…ぉっと」
「危ねぇ!」
歩道ブロックの上を渡り歩いていた幸村が、僅かにバランスを崩した。
咄嗟に彼の腕を取って、歩道側に引く。 すぐ横を車が通り過ぎていった。
「ちっ、そんな所歩くんじゃねぇ」
跡部が、他人に対してこんなに気を使った事があっただろうか。
というより、幸村という人間が掴めていないから、どう接していいのかわからないでいる。
「手、痛いんだけど…」
「悪い…」
跡部は謝ってから思った。 そもそも車に轢かれるところを助けてやったではないか!
イライラがピークに達する寸前、
「あ、そうだ。これよかったら」
幸村は、鞄から取り出したものを差し出した。
「あ~ん?」
小さなチェック柄の紙袋だった。
とりあえず受け取ってみる。
「君の口に合うかわからないけど。」
封をしてあるシールを剥がして中を覗く。
甘い香りが広がった。
「昨日、妹の付き合いで作ったから。クッキー」
(妹がいるのか)
跡部が紙袋を手にしたままその場に立ち尽くしていると、幸村はまたひとり勝手に歩いて行く。
今度は、どこかの家の花壇に咲く花をじっと見ている。 風にさらわれそうになるマフラーを右手で押さえながら…
跡部は、その様子を眺めていた。
トクン…
次の優勝は氷帝がもらう。
奴を部長に選んだ事を後悔させてやる。
トクン…トクン…
勝つのは俺様だ、幸村。
覚えておけ、幸村。
お前のテニスを見切ってやる。
「跡部、早く来いよ!」
トクン…
「これ、もうすぐ咲くよ」
トク、
「お前、下の名前は」