距離感を教えて


「例えばあの猫さん」

(さん…)

戸建ての駐車スペースにある車の傍で、猫が休んでいる。白と黒の牛柄模様で尻尾は短い。

「真田は好奇心旺盛なのはいいけど、距離感を大切にしないと駄目なんだ」

幸村が近付くと、毛づくろいをしていた猫がぱっと動きを止めてこちらを見た。
後ろの片脚をピンと伸ばして上げたまま固まったポーズが可笑しくて、真田はフンと鼻で笑ってしまう。

しばらくそのまま猫も動かないが、幸村も動かない。
睨めっこでもしているのだろうか、と幸村の横顔を覗えば澄ました顔をしている。対する猫はびっくりお目目のままだ。

「この子はここまでかな」

残念、と幸村が呟いて鞄を肩にかけ直せば、猫は逃げの体勢に入っていた。

「かまって欲しければ向こうから寄ってくるんだ。わざわざ怖がらせたくないしね。シャーとか鳴かれたら今日いちにち中、俺も落ち込むからな」

「そんなにか」

「こう見えて臆病なんだよ」

幸村が小さく手を振ったら、猫は車の下に潜り込んでしまった。あ、と声に出しかけた幸村は一瞬傷ついた顔をしたように見えた。

「いいんだ。信じてくれなくて、も…!」 

それから大げさに一歩踏み出して、「行くよ!遅刻する」と振り返った幸村はいつものように真田を従えると、登校する生徒の群れに混ざった。
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