距離感を教えて


歩道の植え込みに何かを見つけた幸村が、ひょいと屈んだ。

「…幸村。明日の1年の練習だが…」

「うん」

「……」

幸村の探究心に火がついたら、こちらの話は打ち切りだ。続けたところで後から、「そんなの聞いてない」「言った言わない」の水掛け論になるのは目に見えている。
それがわかっているから、この時も真田は気持ちを切り替えて、幸村の視線の先を追った。

「何かあったか?」

植え込みの中で見え隠れしているのは雀のようだ。
狭い枝葉の隙間を落ち着きなく動くから、あまりよく見えないが。

「ほら、ふくら雀だ。かわいいだろ?」

まんまるとした冬の雀の姿をもっとよく見たくて、真田は幸村の前へ踏み出した。
すると、雀は一斉に飛び去ってしまった。

「あんなにいたのか」

電線に止まった雀を見上げてから、はっとして幸村を振り返った。

「む…スマン…逃がしてしまったようだ」

機嫌を悪くしたのか、しばらくそのまま歩いて幸村は足を止めた。目の高さ程の金網フェンスの上に雀が二羽止まっている。
真田が幸村の後ろで控えていると、

「ここなら大丈夫だから」

小声で呼ばれて、慎重に足を進めた。
試されているのだろうか。
そっと幸村の隣に並ぶと、一羽の雀が地面に舞い降りたから驚いた。

「大丈夫だから」

幸村が膝を抱えてしゃがみ込んだから、真田もそれに倣った。よくよく見れば、ほっこりする可愛さに眉間のしわも薄くなったに違いない。
そこへもう一羽の雀もやってきて、真田は寒さも忘れて見入っていた。

そろそろ行くかと腰を上げかけると、隣にいるはずの幸村がいない。背後を振り返ると、幸村が片手で口を隠して含み笑いをしている。
せっかく薄くなった眉間のしわをまた刻んだ真田に、

「いや、ごめん。俺、ワクワクしてる真田を見るのが好きなんだよ。昔から」

差し出された手を取って立ち上がる。
ワクワクなどしていないぞ、と言おうとしてやめた。
幸村に目を細めて見つめられて、照れ隠しに首の後ろに手を当てるのがやっとだった。
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