テニスの王子さま
目を覚ましたら、隣に幸村さんはいなかった。
まだ夜明け前で外は暗い。出て行くならせめて明るくなってからにしなよ。危ないからさ。
「最悪…」
目元がカピカピする。
顔を洗ってから色々考えようか。
洗面台に行けば、いるじゃん。
腰にバスタオル一枚巻いただけの、俺の好きな人。
熱心に鏡見てる。
大丈夫だって。綺麗だから。
「わ!びっくりしたぁ…」
ぷ…本気でびっくりしたんだ。
「なに見てんの」
俺は嬉しくて仕方ない感情をカケラも出さずに聞いた。
「キス魔にやられて唇が荒れたからね」
「え、嘘!?」
あわてて幸村さんの両頬を両手で挟んで自分に向けた。
なんだ…大したことないじゃん。よかった。
「変な顔だね」
「泣き虫に言われたくない」
「泣いてない、し…」
くっそ…なんで泣きたくなるんだろ。
いいってば、抱きしめなくて。
「全豪準優勝おめでとう」
「別に…優勝できなかったし」
「わかるよその気持ち」
だったら慰めないでくれる?
もう、何が悔しくて泣きたいのかわかんなくなったじゃん。
「そうじゃなくて、俺と付き合ってくれるわけ?ちゃんと返事、もらってないんだけど」
幸村さんの胸元を軽く押し返して距離をとると、じっとその瞳を見つめた。
こんな緊張感、どんな大きな大会でも味わった試しがない。
そんな俺の思いとは裏腹に、幸村さんはきょとんとしてから、
「え、ずっと付き合ってるつもりでいたのは俺だけだったのか…だって、やる事やって、今日だって…嘘だろ…だって5年も俺…」
幸村さんは、洗面台に手をついてがっくりと項垂れた。それから蛇口をめいっぱいひねって、水を流し出した。
激しい水音の中に、幸村さんの小さな声を見つけた。
「恥ずかしすぎてどうにかなりそうだ…」
