空想よりもおもしろい

どの部活も活動を終えて、校庭を足早に横切っていく。
下校時刻を報せる鐘が生徒を急かす。
部室の窓から見えるその光景に、丸井は苦々しげに顔をしかめていた。
それでも、努めて明るい普段通りの笑顔をつくってから、後ろを振り返る。
視線の先の彼は、椅子に座って雑誌のページを捲っていた。足を組みかえて、机に肘をつく、その動作のひとつひとつが、丸井にはとても優雅に見えた。

読んでいるのは、たぶんガーデニング関係で、きっとついさっきまでコートを征していた事なんて、忘れているに違いない。
それくらい、この幸村精市という丸井の友人は、テニスに対する執着というものがまるでよくわからなかった。
もしかすると、彼にとってテニスは生活の一部と化しているから、執着もなにも、三度の食事と同じなのかもしれない。
だから、ご馳走さまの後は何事も無かったように過ごすのは当たり前なんだ、と丸井は考えていた。
けれどこの執着の無さが、果たして今後良い方向に進むかどうかはわからない。
それでもテニスを特別視しない今の幸村が、丸井は好きだった。

もう一度窓の外を見る。
校門の前の道路を挟んで向こう側の歩道に、いる。
塀にもたれ掛かって腕を組むアイツは、遠く離れているのによく目立つ。

カタン

振り返れば、鞄に雑誌を入れて静かに立ち上がる彼を見る。

(帰るのかぁ…)

そう思ってまた、見たくもない校庭の先に視線を向けた。
口の中の、とっくに味のしなくなったガムを膨らましては、潰した。

「丸井、先帰るね」

「ん~、バイバイ」

窓の外から、ひゅうっと埃っぽい春の風が吹いて来て、部室のドアがぱたんと閉まった。 優勝旗とかトロフィーに付いてるリボンがひらひらするから、窓を閉めた。
そうしたら急に静かになった。

カチャ…

ハッとして辺りを見回す。側にあるのは置き去りにされた幸村のラケットバッグだけで、中のラケットが音を出しただけだった。

「危ないって…」

点滅する青信号を走って渡る幸村に呟いた。

(幸村くんて、ああいうところ、結構せっかちなんだよなぁ)

窓の外にもう用はないから、丸井はカーテンを閉めて荷物をまとめる。
明日は幸村と切原も誘って、ケーキバイキングに行けたらいいなと思った。
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