大切な…

幸村は立海テニス部がすきだった。
彼らだけは、自分を"幸村精市"として見てくれる。
幸村の駄目な部分をたくさん知っているし、道を誤れば叱責されることもある。

実質、幸村が部長を努めているが、このテニス部を動かしているのは真田や柳かもしれない。
何か問題が起こった時も、大抵解決後に幸村の耳に入ることが多い。
だから、不二や白石が言うような困ったことは幸村にとって皆無だった。
かといって、幸村の部長としての存在が希薄であるということは決してない。
けれど手塚や跡部、白石のように前に出て部を統率するような器用さは実は持ち合わせていない。

ではなぜ、皆は自分についてくるのか…
ソファーで眠る真田を見る。
部屋のエアコンの音だけが聞こえる静かな室内で、寝息が妙に目立つ。
何度、真田の方が部長に向いていると思ったことか。
人の分まで苦労して努力して。

(これからはお前のためだけにテニスをしろって言っただろ?)

汗ばんだ彼の髪に触れた。

「俺だ。開けるぞ」

咄嗟に手を離して、素早くジャージを羽織った。
同時にドアが開いて、柳が顔を出す。

「ミーティングは済んだが…なんだ、弦一郎の方が先に落ちたのか」

これは意外だと言う柳に、急に恥ずかしくなった。

「蓮二…」

「皆お前たちを待っているが…あいつは寝かせておけばいいだろう」

頷いて、部屋を出る柳を追った。
と、寸前で足を止めて振り返る。
よほど疲れているのか、しかし安心しきった様な顔で眠り続ける真田の背に、自分のジャージをかけた。

(俺はいるからな)

そんな気持ちで。

半袖になったから肌寒い。
ドアを閉めて廊下に出ると、少し先を歩く柳の背に飛び付いて、

「蓮二、ジャージかして!」

寒いから嫌だとあっさり却下された。



部屋の机の上のつぼみは、いつの間にか綺麗な花をちゃんと咲かせていた。



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