立海 I LOB YOU
幸村部長は気丈な人だ。
今日が手術だというのに、家族の誰一人入室を拒んだと後から聞いた。ますます自分が、ここに存在する意味がわからない玉川だった。
「来てくれたんだ?」
不意に声がかかって、あわてて立ち上がる。
幸村部長は眩しそうな目を向けた。
「あの…玉川です」
「玉川くんか…」
知っているのか知らないのかわからない反応がちょっと残念だった。
「こっちに」
手招きされて遠慮がちに近寄った。
「あの…?」
「それを見てるとね、安心するんだ」
ああ、立海ジャージかと気が付いて、玉川も部長と一緒に見下ろした。
この人の頭の中はこれでいっぱいなんだと知る。
「弦一郎…副部長に言い付けられたかい?」
「いえ、桑原先輩に」
すると幸村部長は一瞬意外そうな顔をしてから、
「そうか…それなら間違いない人選だ」
静かに言って視線を落とした。
「あの…来たのが自分ですみません!」
腰を折って頭を下げずにいられなかった。
今頃は切原が勝っていれば、関東大会優勝の報告と共に真田副部長が駆けつけてくるはずだ。
「言っただろう?君はジャッカルが見込んだ男だ。俺は君でよかったと思っているよ」
「しかし副部長は何も…」
病院に行く旨を伝えても、副部長はこれといった反応を示さなかった。
「君なら安心だからさ。言う事無しなんだろう。そうだな…あとは多少の嫉妬があれば俺はうれしい」
けらけら笑い出した幸村部長をよそに、玉川は冷や汗をかかずにいられない。
「冗談だよ。攻めあぐねているようだから、イライラしているんだ」
病室の時計を見つめた幸村部長は身を起こした。
玉川がすぐにその背中を支える。
薄い肩に気付かないふりをするのがやっとだった。
「切原はきっと勝ったはずです」
遠回しに、真田副部長の凱旋はもうすぐだと伝えたつもりだ。なんとか部長を元気づけて、手術までの時を稼ぐのが自分の使命なのだ。
大丈夫だ。直にレギュラー陣はそろって幸村部長を励ましにやって来る。
