城主幸村を救え


「白いベッドは気が引けるなぁ…」

保健室に入るとすぐに顔を曇らせた幸村に、当たりくじを引いた気でいた白石は落ち込んだ。

「でも、白石に罪はないから。せっかく大阪から来てくれたんだ。俺になにかできる事はあるかい?」

逆に気を遣われて、白石は感動した。

「なんだか先の二人には面映ゆい思いをさせられてね。白石にはぜひ俺から」

(何をしてもろても嬉しいけど…テニスはアカン。時期尚早や)

「そうだな…マッサージなんてどうかな。といっても、素人だけど」

「幸村クンのマッサージ受けられるなんて幸せや。帰ったら皆に自慢したろ」

さっそくベッドにうつ伏せに寝ると、幸村が体を跨いで上に乗った。

「座ってええよ」

「じゃあ、そうさせてもらうよ。重くなったら言ってくれ」

幸村の体重が腰に乗る。重くは感じなかった。
首から肩、肩甲骨の辺りを両手を使って押し揉みしてくれた。
こういうのは、プロでなくても気持ちのいいものだ。

「あかん…気持ちえぇわ、幸村クン」

「そう?疲れがたまってるんじゃないのかい?四天宝寺は賑やかそうだから」

控え目にくすりと幸村が笑った。
その笑顔が見たかったが、うつ伏せの白石は残念だった。

「まあな。バラバラやけど楽しいからえぇかって。個性の薄い俺が部長やっとるのが不思議や」

「笑いの絶えない部活か…俺たちには想像できないな。部員は白石に感謝しているだろうね」

今度は、ちょっとため息混じりの困った笑顔を浮かべているかも知れない。
そう確信すると、白石は断り無く体を返して、バランスを崩した幸村の手首を取った。

「交代や。俺がマッサージしよか」

優しい声音で、けれど押し付けるように言った。

躊躇いながらベッドに伏せた幸村の背中を上から眺めた。ユニフォーム姿で見るよりも、制服でいる方がずっと細身に見えた。

「あんまり気負い過ぎたらアカンで。皆もっと幸村クンに頼られたいんと違うか」

形のいい腰まわりに手のひら全体で揉んでいく。
うっと、小さく声を立てた幸村に手応えを感じて嬉しくなる。

「そんで、ありがとぉ、助かったよって、褒めてやったらえぇんよ。それだけで幸村クンは十分や。立海は強くなるで」

幸村を崇拝するような雰囲気のある立海は一種異様だが、そこが強さであり脆さであると白石は分析した。

「単純や、部員は皆幸村クンに褒められたくて強くなる。な?」

白石は大げさに笑った。

(結局、俺にできる事なんて笑って誤魔化すくらいや…)

しんみりしながら、幸村の体から離れた。

「…ありがとう。助かったよ」

やっぱり面映ゆい思いをさせられたであろう幸村は、枕に突っ伏したままそう言った。
もうその言葉だけで、白石は心にじんときたし、廊下に控えていた立海の面々も目に涙を溜めた。
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