十二月のしきたり
pm:22:24
家に帰って家族の叱責を受けた後、反省の心よりも悶悶(もんもん)とした気持ちを静めるために努力した。しかし筋肉トレーニングに励んでも、熱い湯に浸かってみても、一向に治まらない。
(幸村…)
今日いちにちの幸村を逐一思い出していけば、ドクリと体の内側が脈を打つ。
(まずい…)
俺は幸村の夢で初めて夢精した過去をもつ。まだ今より子供だった俺は、それ以降得体の知れない心地良さに負けて何度か幸村を使ってしまった。
やがてテニス漬けの毎日や幸村の病もあって、だんだん遠退いていたのだが…
あろう事か、手塚戦での彼の華麗な勇姿を目の当たりにして、俺の中でずっと燻っていた感情に再び火が点いてしまった。
あの激戦の最中、長い間硬い殻に籠もっていた蛹が蝶になるように、幸村は羽ばたいたのだ。その時に見せた清清しい表情の幸村が忘れられない。
「ああ…好きだ、幸村」
俺は着流しの前を緩めて、火照り始めた体を楽にしようとした。
「許せ…幸村…」
「許すよ」
「…!」
ハッと顔を上げれば、そこにその人本人がいるではないか。
「来ちゃったよ」
すまなそうに、でもイタズラっぽく微笑んだ。
出かけた時の大人びた服も良かったが、今着ている"とっくり"のセーターも可愛げがあって俺の心をくすぐった。
突如夢から出てきたような幸村に不審と期待を抱く。
夢なら自分でも何を仕出かすかわからない危険な精神状態だ。
(夢ならばそれもまたよし)
しかし現実ならば、どうにかなる前に俺は自分の逃げ道を用意しなければいけない。
幸村が口を開いた。
「眠れない。弦一郎くんに会いたい。今会わないと駄目なんだ。また体が動かなくなってから後悔するのは嫌なんだ」
俺は何を聞かされているのか。
おまえが望むなら何度だって会ってやる。後悔なんてさせやしないのに。
「親に聞き分けのないわがままを言ったんだ。そしたら、怯えたみたいな目をして俺を見つめてから、俺が止める暇もなくて…真田家に電話してた」
俺は頭でイメージしなから話に耳を傾けていた。
「夜分遅くに申し訳ありません…って。どうしてもお願いできませんか…って。声を涙に変えて言うんだから参ったよ。こんな最低な真似はしたくなかったんだけど、どうしても君の顔を見ないと居ても立ってもいられなくなって、仕方なしに…」
だんだんと声が小さくなる幸村を促すように、俺は黙って頷いた。すると幸村はあきらめたような笑みをつくった。
「こうまでしないと、俺たちは自由に会えないものなのかな…」
幸村の気持ちは痛いほどわかる。しかし彼の両親の気持ちにも俺は心を寄せた。
俺は、ごく自然に幸村を抱きしめた。てっきり外の冷気を纏っていると思ったらその心配はないようだ。
「ひとりで来たのか?」
「車で」
幸村はゆっくり首を振ってから、廊下へ視線を向けた。よく聞けば、玄関の方で声がする。
「うちが悪い、いやうちが…って始まっちゃって。きりがないから抜けてきた。門限破り大丈夫だったかい?」
俺は幸村をその場に残して廊下に飛び出た。
行儀の悪い足音に驚いた顔をした母と、しかめ面をした祖父がこちらを振り返った。
その奥にいるのが、幸村の両親だった。
その姿を前にすると、俺は目的を見失った。
不躾に現れた息子の着崩れた格好に、母は恥ずかしそうに俯き、祖父には「けしからん奴め」とひと睨みされて咎(とが)められた。
「弦一郎君?」
立ち尽くすだけの俺に、幸村の母親がやさしい声をくれた。
家に帰って家族の叱責を受けた後、反省の心よりも悶悶(もんもん)とした気持ちを静めるために努力した。しかし筋肉トレーニングに励んでも、熱い湯に浸かってみても、一向に治まらない。
(幸村…)
今日いちにちの幸村を逐一思い出していけば、ドクリと体の内側が脈を打つ。
(まずい…)
俺は幸村の夢で初めて夢精した過去をもつ。まだ今より子供だった俺は、それ以降得体の知れない心地良さに負けて何度か幸村を使ってしまった。
やがてテニス漬けの毎日や幸村の病もあって、だんだん遠退いていたのだが…
あろう事か、手塚戦での彼の華麗な勇姿を目の当たりにして、俺の中でずっと燻っていた感情に再び火が点いてしまった。
あの激戦の最中、長い間硬い殻に籠もっていた蛹が蝶になるように、幸村は羽ばたいたのだ。その時に見せた清清しい表情の幸村が忘れられない。
「ああ…好きだ、幸村」
俺は着流しの前を緩めて、火照り始めた体を楽にしようとした。
「許せ…幸村…」
「許すよ」
「…!」
ハッと顔を上げれば、そこにその人本人がいるではないか。
「来ちゃったよ」
すまなそうに、でもイタズラっぽく微笑んだ。
出かけた時の大人びた服も良かったが、今着ている"とっくり"のセーターも可愛げがあって俺の心をくすぐった。
突如夢から出てきたような幸村に不審と期待を抱く。
夢なら自分でも何を仕出かすかわからない危険な精神状態だ。
(夢ならばそれもまたよし)
しかし現実ならば、どうにかなる前に俺は自分の逃げ道を用意しなければいけない。
幸村が口を開いた。
「眠れない。弦一郎くんに会いたい。今会わないと駄目なんだ。また体が動かなくなってから後悔するのは嫌なんだ」
俺は何を聞かされているのか。
おまえが望むなら何度だって会ってやる。後悔なんてさせやしないのに。
「親に聞き分けのないわがままを言ったんだ。そしたら、怯えたみたいな目をして俺を見つめてから、俺が止める暇もなくて…真田家に電話してた」
俺は頭でイメージしなから話に耳を傾けていた。
「夜分遅くに申し訳ありません…って。どうしてもお願いできませんか…って。声を涙に変えて言うんだから参ったよ。こんな最低な真似はしたくなかったんだけど、どうしても君の顔を見ないと居ても立ってもいられなくなって、仕方なしに…」
だんだんと声が小さくなる幸村を促すように、俺は黙って頷いた。すると幸村はあきらめたような笑みをつくった。
「こうまでしないと、俺たちは自由に会えないものなのかな…」
幸村の気持ちは痛いほどわかる。しかし彼の両親の気持ちにも俺は心を寄せた。
俺は、ごく自然に幸村を抱きしめた。てっきり外の冷気を纏っていると思ったらその心配はないようだ。
「ひとりで来たのか?」
「車で」
幸村はゆっくり首を振ってから、廊下へ視線を向けた。よく聞けば、玄関の方で声がする。
「うちが悪い、いやうちが…って始まっちゃって。きりがないから抜けてきた。門限破り大丈夫だったかい?」
俺は幸村をその場に残して廊下に飛び出た。
行儀の悪い足音に驚いた顔をした母と、しかめ面をした祖父がこちらを振り返った。
その奥にいるのが、幸村の両親だった。
その姿を前にすると、俺は目的を見失った。
不躾に現れた息子の着崩れた格好に、母は恥ずかしそうに俯き、祖父には「けしからん奴め」とひと睨みされて咎(とが)められた。
「弦一郎君?」
立ち尽くすだけの俺に、幸村の母親がやさしい声をくれた。
