十二月のしきたり

pm:20:00

「詰めが甘いんだよ」

「すまん…」

「き…キスして勝ち誇ってるつもりだろうけど。俺の気持ちはどうなるんだよ」

「どうなんだ」

「え…」

あまりに早い真田の切り返しに、俺はぐうの音も出なかった。

「だからどうなんだ。俺ははっきりとしている。幸村が好きなのだ。大切に想っている。おまえと一生を添い遂げられればこの上ない幸せだと思っている」

話が飛躍しすぎている。
ここは帰りの駅のホームで、電車が来るまでのただの待ち時間だったのに。

「…そういう大事な話はさっき観覧車ですればよかったんだよ」

真剣に真正面から告白されて、嬉しいやら恥ずかしいやらで俺の心はむずむずしていた。
本当は、場所なんてどこでもよかった。
真田には、シチュエーションに頼らずとも誠実な人柄と真実だけを語る漆黒の瞳がある。それがあれば、どんなに素敵な背景だって目に入らないだろうから。

(俺にはもったいない男だな)

思いあぐねているうちに、ホームに電車が滑り込んで会話は途絶えた。
乗り込もうとする俺に取りすがる真田の力は強かった。ぐんと腕を引かれて、危うく背中から倒れるかと思った。それから、すぐそこにいた最後尾の車掌さんの視線に気付いた俺は、取り繕うように会釈した。
やがてドアが閉まって、電車は俺たちを置き去りにして行ってしまった。

電車はホームにいた人を残さず連れ去った。
右に顔を向ければ、外に面した暗く静かな冬の夜のホームに、ずっと先まで蛍光灯の仄白い明かりが続いている。
途端に寒さと寂しさを感じて、俺は背中に抱きついている男に呼びかけたくなった。しかし適当な言葉が出てこない。真田の告白を飛び越えた宣言が尾を引いていて、俺をドキドキさせていたから。

「返事をくれないか」

耳に直接響く低音が、俺に追い討ちをかけてくる。
真田は俺の体を正面に向けると、

「どうしても返事が欲しいのだ」

彼が私的でここまで強く欲求を表に出すのは珍しかった。
キラキラ光る漆黒の瞳がビー玉のように綺麗で、俺は惹きつけられるように両手を伸ばした。
頬に触れた手は冷たいはずなのに、彼はじっとされるがままでいた。

初めて人にキスをした。
思ったよりも呆気なく済んでしまったのがちょっと納得いかないけれど、再び真田と顔を合わせると一気に恥ずかしさでいっぱいになってしまった。
何やってるんだよ精市!と心の底で叫んだ。

「う…まく言えないからこれで許してもらおうか、な…」

さっと顔を背けて、軽く真田の体を押しやった。
ホームに人が見えてきたからだ。

「な、もうだめだから…」

何が駄目なのかもわからないけれど、真田もそれはわかってて、俺たちは手も触れずに隣に並んで電車を待った。それがすごく切なかった。
16/20ページ
スキ