十二月のしきたり

pm:19:16

連れてこられたのは、遊園地だった。

「へえ…夜の遊園地も綺麗だね」

俺は当たらず触らずの態度と言葉を選んだ。
それにしても今年のクリスマスは冷え込んだ。毎年こんなに寒かっただろうか。
右手はコートのポケットに入れて温まったけど、左手は真田に繋がれたままで外気に触れて指先は冷たくなった。

(振りほどいたら怒られそうだ。でも…)

辺りを見回す。きっと皆自分の楽しみに夢中で中学生の男子2人が手を繋いでいたって目に止めないだろう。
俺が自分の手袋を持ってこなかったのも、真田に借りた手袋をしなかったのもこんな時のため。
試合後にする握手でもなく、病床で握ってくれた手でもない。邪魔な感情は一切混じらない真田の手に繋がれてみたかったんだ。

そこへ風のように前を横切ったのは、元気いっぱいの男の子だった。後から追い付いたもう1人の男の子を待ってから、一緒に駆け出して行った。5、6才だろうか。俺は2人の姿が見えなくなるまで目を離さなかった。

「よそ見をするな。ぶつかるぞ」

手を握り直した真田が不機嫌そうに言った。

(おまえ以外見るなって?あんな小さな子だって最後まで手なんて繋がなかったよ)

俺がぼうっとしている間に、ちゃんとチケットを買っていた真田に感心した。

「観覧車…」

「ふたりで乗るのは初めてだな」

家族連れとカップルばかりの列に混ざった。
さすがに手はどちらともなく離したけれど。

ゴンドラに乗り込んで少しも経たないうちに、正面に座っていた真田が断り無く隣に座ってきた。
俺は俯くことで拒絶した。そう、今日いちにちの間に真田はどんどん男前になっていった。間近でそれを肌で感じていた俺は、やるせない気持ちが募るばかりだった。

「幸村」

俺はうなだれたまま、黙っていた。

「やはりおまえの言ったように、今年のクリスマスは特別なようだな」

膝の上で握り込んでいた俺の拳を真田の手が包んだ。

「……」

「見てみろ幸村。もうすぐ真上だぞ」

弾む真田の声につられて思わず顔を上げたら、不意を突かれた。まさか真田からキスをされるなんて考えてもいなかったから。するのは間違いなく俺の方からだと、ほとんど疑わずにここまできたのに。

「引っかかったな」

真田が外に目配せした。見ればまだ頂上には早かった。真田が俺を騙すなんて信じられない事だった。

(だめだ…何も言って返せない…)

ただただ夢のような現実に胸がいっぱいになった。
俺はそっと真田の横顔を探った。この位置からの輪郭の線が俺はずっと好きだった。
言葉を変えれば見惚れていた。

「嘘をついてすまなかった。今度こそ頂上だぞ」

真田は俺の肩を抱いて、ガラスに額が付きそうなくらい顔を寄せた。
眼下に煌びやかな明かりが広がった。

「…もっと見たらいい」

「見てるぞ。見ろ、あのジェットコースターは赤也なんか喜びそうだぞ。今度あいつらと…」

「俺を見ないでどうするんだ…!」
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