十二月のしきたり
pm:16 :56
あっという間に外は暗くなった。
真田は行くあてがあるらしい。目的地に着くまでの道のりは、眩しいくらいのイルミネーションであふれていた。オフィスビルに沿うように続く並木道は青と白の光が幻想的だ。
「すごいな」
真田は少し目を細めて白い息を吐きながら、俺の隣を歩く。そんな彼の横顔は久しぶりに安らかで俺は安心した。
「ここだな」
高層ビルの中に入る真田の後に従うと、警備の人に止められた。手荷物を確認するようだ。
ここでちょっとおもしろい事があった。
『チャックを開けてください』
言われた真田は迷わずに上着のチャックを下ろしていた。
『いえ、お荷物の方…』
「む…ぁ、ああ…」
真田は改めてリュックの中を広げて見せた。
警備の人のあっさりした態度と真田の平常心を保とうとする感じが相まって、俺は変なツボにはまった。
俺は自分の手荷物を見せ終わると、すぐに真田の元へ行った。
「あっは!チャック違いだったな」
「む…主語が無いのが悪いのだ」
なんの疑いもなく上着のチャックを下ろした真田の様子は忘れられない。ここ最近で一番俺を笑わせた。
「そんなにおかしいか」
「ごめん。でも楽しくて。今年1番笑った気がするよ」
俺は涙で滲んだ目を指でおさえた。
「おまえのことだから他言するのだろう」
「言わない。こんな真田を知ってるのは俺だけがいいからな」
「…好きにしろ」
真田はへそを曲げただろうか。それでも俺は微笑を浮かべたまま、エレベーターに乗り込む広い背中を追った。
ぐんぐん昇るエレベーターの着いた先は、展望室だ。
無料で開放されている所を真田が見つけてくれていた。正直、真田がこんな場所を予めリサーチしていたなんて思いもよらなかった。
ガラス面に沿って、時折立ち止まりながらゆっくり歩いた。東京の夜景が360°ずっと先まで見渡せる。
ちょうど人が溜まっていない場所を見つけて、俺たちはそこでしばらくぼんやりとした。
(きれいだな)
何も考えないでいられる時間が流れた。
ほどよく聞こえる人の囁きやカメラのシャッター音が、静かすぎない空間をつくってくれてかえって良かった。
俺はひとりの世界に入り込んでいた。
だから心ここにあらずの俺は、真田の呼びかけにも軽く受け流してしまったんだ。
「幸村」
「うん?」
「その、もう少しそっちに行ってもいいか」
「なんだよ他人行儀だな。そんなのわざわざ断らないで来ればいいだろ?」
いつもなら、すっと俺の隣に並ぶのが普通だろうに。
てっきり俺の今いる位置から夜景を見たいのかと思って、真田が近付いた同じ分だけ、俺は横に移動した。
「ほら、そこからだとあの会社の本社ビルが見えるだろ」
な?と真田を振り向けば、イライラしたような目をした彼が俺を睨んだ。
「なんだ見つからないのか?ほらあの…」
「そうではない」
手すりに置いていた俺の手に重ねられたのは、熱くて厚い真田の手のひらだった。
俺はもう、夜景も真田の顔も見られなくなって、重なったふたつの手から目が離せなかった。
あっという間に外は暗くなった。
真田は行くあてがあるらしい。目的地に着くまでの道のりは、眩しいくらいのイルミネーションであふれていた。オフィスビルに沿うように続く並木道は青と白の光が幻想的だ。
「すごいな」
真田は少し目を細めて白い息を吐きながら、俺の隣を歩く。そんな彼の横顔は久しぶりに安らかで俺は安心した。
「ここだな」
高層ビルの中に入る真田の後に従うと、警備の人に止められた。手荷物を確認するようだ。
ここでちょっとおもしろい事があった。
『チャックを開けてください』
言われた真田は迷わずに上着のチャックを下ろしていた。
『いえ、お荷物の方…』
「む…ぁ、ああ…」
真田は改めてリュックの中を広げて見せた。
警備の人のあっさりした態度と真田の平常心を保とうとする感じが相まって、俺は変なツボにはまった。
俺は自分の手荷物を見せ終わると、すぐに真田の元へ行った。
「あっは!チャック違いだったな」
「む…主語が無いのが悪いのだ」
なんの疑いもなく上着のチャックを下ろした真田の様子は忘れられない。ここ最近で一番俺を笑わせた。
「そんなにおかしいか」
「ごめん。でも楽しくて。今年1番笑った気がするよ」
俺は涙で滲んだ目を指でおさえた。
「おまえのことだから他言するのだろう」
「言わない。こんな真田を知ってるのは俺だけがいいからな」
「…好きにしろ」
真田はへそを曲げただろうか。それでも俺は微笑を浮かべたまま、エレベーターに乗り込む広い背中を追った。
ぐんぐん昇るエレベーターの着いた先は、展望室だ。
無料で開放されている所を真田が見つけてくれていた。正直、真田がこんな場所を予めリサーチしていたなんて思いもよらなかった。
ガラス面に沿って、時折立ち止まりながらゆっくり歩いた。東京の夜景が360°ずっと先まで見渡せる。
ちょうど人が溜まっていない場所を見つけて、俺たちはそこでしばらくぼんやりとした。
(きれいだな)
何も考えないでいられる時間が流れた。
ほどよく聞こえる人の囁きやカメラのシャッター音が、静かすぎない空間をつくってくれてかえって良かった。
俺はひとりの世界に入り込んでいた。
だから心ここにあらずの俺は、真田の呼びかけにも軽く受け流してしまったんだ。
「幸村」
「うん?」
「その、もう少しそっちに行ってもいいか」
「なんだよ他人行儀だな。そんなのわざわざ断らないで来ればいいだろ?」
いつもなら、すっと俺の隣に並ぶのが普通だろうに。
てっきり俺の今いる位置から夜景を見たいのかと思って、真田が近付いた同じ分だけ、俺は横に移動した。
「ほら、そこからだとあの会社の本社ビルが見えるだろ」
な?と真田を振り向けば、イライラしたような目をした彼が俺を睨んだ。
「なんだ見つからないのか?ほらあの…」
「そうではない」
手すりに置いていた俺の手に重ねられたのは、熱くて厚い真田の手のひらだった。
俺はもう、夜景も真田の顔も見られなくなって、重なったふたつの手から目が離せなかった。
