十二月のしきたり

pm:13:45

風が冷たくなってきて、屋内に場所を移した。
ショッピングモールをあてもなく歩く幸村に付いていく。しかし服を見るばかりで正直飽きてきた俺は、幸村の気を引く事にした。

「幸村。屋上に行ってみないか」

電子掲示板に視線をやった。
目まぐるしく変わる案内のひとつに、今だけ屋上庭園で本物のもみの木のクリスマスツリーが見られるというのだ。

「これを貸そう」

俺はリュックから手袋を出した。
ニット素材の一部に羊皮を混じえた濃紺の手袋だ。裏起毛素材であたたかい。

「用意がいいな」

幸村はマフラーを巻き直してから手袋を受け取った。

「へえ…おしゃれで高そうだと思ったら、ブランドじゃないか」

「うむ。俺にはそのブランドのなんたるかはわからんが、お義姉さんから頂いたのだ。し…しかし俺は手袋はあまりしないからほとんど新品同様だぞ」

あわてて言葉を付け足したのは、借り物に抵抗があるのかもしれないと思ったからで、俺の気持ちは少し凹んだ。

「どうりで…真田によく似合うよ。身近に大人の女の人がいるとちがうな」

最後の方はつぶやくように幸村は言って、

「ありがとう。寒さに耐えなれなくなったら使わせてもらうよ」

一応はコートのポケットに仕舞ってくれた。

屋上にはサンタや雪だるまの置物が飾られていて、クリスマスらしい寄せ植えもたくさんある。俺が見てもかわいい空間だと感心した。
庭園の中央に大きなクリスマスツリーがあって、幸村はそれを見上げていた。

「夜なら電飾がきれいだろうな」

俺も隣に並んで腕を組んだ。

「写真を撮らないか」

スマートフォンを取り出した幸村が俺を見た。
それはツリーの写真かとも思われたが、幸村の控え目な眼差しがそれを否定している。
たぶん俺はあかくなったと思う。

「…言われてみれば、久しぶりだな」

「こっち」

ツリーを背後にして肩が触れ合うくらい近寄った。
何人もの人に見守られているような気がして、恥ずかしさのあまり、俺は早くこの時が終わればいいという許し難い感情を抑えなければならなかった。

「よく撮れてるよ」

写真写りに自信はなかったが、確かによく撮れていた。無論幸村の写りは格別で、俺の目はツリーよりも…

「俺にも送ってくれないか!」

スマートフォンをバッグに入れようとした幸村を止めた。先程抱いた感情を棚に上げて、勝手だとは思ったが心から写真が欲しくなった。

「…そんなにほしいのか」

「ぁ…いや…すまん、つい…」

俺はつかんでいた幸村の手首を離した。

「めずらしいな。真田が写真をほしがるなんて」

「俺だって気になるものは欲しくもなるぞ」

「そうだな…こんな立派なもみの木のツリーは初めてだ」

俺は送られた写真をじっと眺めた。
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