十二月のしきたり

am.12:25

屋外のイベントテントをあちこち見て回った。
俺はどこからどう巡ればいいのかよくわからないから、幸村の後ろをついて歩いた。
クリスマス関連の商品がほとんどで、時折、焼き菓子のような甘い香りも鼻をくすぐった。
幸村がテントの前で立ち止まれば、俺も隣に並んで幸村が手に取った物を横から覗き込む。

「ほら、あそこ見てみなよ」

そう言われれば同じ視線の先を見たし、

「これはおもしろいな」

幸村が微笑めば、俺も口元を緩めた。

『もしもし、そこのきれいなお兄さん』

あるテントの店先で、呼ぶ声がした。
振り返れば、老女が手招きしている。幸村が俺を見、俺はうなずき返した。

「俺のことですか?」

幸村はテントに歩み寄りながら、老女に尋ねた。
俺は心の底から思った。

(おまえ以外に誰がいるのだ)

チョコレートの試食を勧められる。俺も勧められたが、甘すぎると困るのでやんわり断った。幸村は丸くて少し大きめのチョコレートを口に入れていた。
その後、歩き進めていると、どうも幸村の表情が暗い。人混みに疲れたのだろうか。

「どうした?」

「さっきのチョコレート…ボンボンだったみたいだ…」

苦い顔をしながら幸村が教えてくれたのは、ウイスキーが中に入っているチョコレートらしい。

「美味しくないのか…?」

「俺にはまだ早いようだ…」

ほんのり頬が赤らんでいる。チョコレートで酔いが回るなんて思いもよらなかった。
手洗いに行くと言う幸村に付いていこうとすると、「そこまでしなくていい」と断られた。
屋外に設けられた手洗いに入って行く幸村を見届けると、それなら今のうちにと俺は踵を返した。

来た道を引き返して、ひとつのイベントテントの前に立った。先ほど通りすがりに、幸村が好みそうな物を見つけていたからだ。

(直感だが…おそらく気に入るはずだ)

本人を前にして買うのは心を決めかねたから、こっそり買っておいて、帰り際にでも手渡す事に決めた。
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