十二月のしきたり

am.10:25

まだ心の準備が整わない内に、左助くんにインターホンを押されてしまって、焦ったよ。
中からドタドタと足音がしたと思ったら、すぐに真田が顔を出した。それも、不機嫌丸出しの顔で。
確かに、早く来すぎた俺が悪い。でもだからといってそうあからさまにされると傷つくなあ…

本当のところ、10時から近くの公園で時間を持て余していた。
俺にとって真田は、なんの気兼ねのいらない相手のはずだった。去年までの俺だったら、「来たよ」と言って迷わずインターホンを押しただろう。今年はそれができずに、ベンチに座って白い息を吐きながら、かじかむ手をコートのポケットに引っ込めていた。

言えない。
早く訪た理由が真田の和装を見たかったからなんて。
正月のきちんとした正装の着物姿も良いけど、着物をラフに着こなしている真田は、生活感が垣間見えて眩しかった。 

(まだ洋服に着替えてなかった)

実は先に、左助くんとちょっとした賭けをしていた。
さりげなく、小さな甥っ子から情報を得ようとした。

ーーー真田は早起きだから、とっくに着替えているんじゃないかな

「うーん…相手が幸村くんだからなあ…まだ着替えてないと思う」

左助くんの言った意味がよくわからなかったけれど、賭けは彼の勝ちになったわけだ。
クリスマスプレゼントを約束した。



「寒かっただろう」

くしゃみをしたのは左助くんだから、彼を心配して出た言葉だろうけど。ここではじめて俺は真田を正面から見据えることができた。

例えるなら、初めてのデートで見る彼氏の私服姿にくすぐられる女の子の気持ちとか。
妹の少女漫画を読んでみると、よくある描写だ。
別に、左助くんのデート発言に誘発されたわけではないけれど。

(真田のは家着だし。俺って変だな)

いやいや、そもそも俺は男だし。
真田じゃなくて、今どき着物を着て過ごす男が珍しくて、目が離せなかったんだ。
俺はぎこちなく視線を逸らして言った。

「ついさっき来たばかりだから」

いつ来たのか聞かれたわけではないのに、そんな答え方になってしまった。外は寒いのだから、「今日は寒いね」でよかったんだ。
左助くんには、公園で会ったことは口止めしておかないと。
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