十二月のしきたり

am.10:38

自室に引き返した俺は、思いがけない幸村の登場にまだ動揺がおさまらないまま、帯の結び目をほどいた。
家着として着物をさらりと着て過ごしていたから、急な幸村の訪問とは知らず、たるんだ着こなしで対応してしまった事を後悔した。

それに比べて幸村はどうだ。
年毎に大人びて、あの顔立ちと背格好によく似合った服に身をくるんでいた。
その姿に、目を奪われていたのを不審に思われていなければいいのだが。

幸村の装いを脳裏に思い返す。
俺もそれに見合った服を選ばなければならない。
幸村の隣を歩くに相応しい、それでいて彼をより引き立てる服を選ぶのだ。

着物を肩から落として、姿見の前に立つ。
日頃鍛えているこの身体は、俺の密かな自慢だ。
別に誰にひけらかすつもりはないが、幸村の微笑が浮かんだのには、赤面した。

(俺は何を考えているのだ!)

それにしても、幸村はいつまで俺とクリスマスを過ごすつもりでいるのだろうか。
佐助君に言われてはじめて、俺は疑問にぶつかった。幸村に彼女がいてもなんら不思議ではないし、いない方が不自然であるくらい、多くの女子の心をとらえているのを俺は知っていた。

毎年遊びに出かけていると、幸村は言った。
幸村にとっては、年中行事のひとつとしてやめられないだけだとしたら。

(遊びに、か…)

間違いではない言葉の響きが、あっさりとしすぎていて物足りなさを感じた。 
去年までは蓋をしてきた感情の壺が、何かの拍子に溢れ出してきそうな予感がする。
今日の幸村の装いを目の当たりにした時から、俺の心は揺れているのだ。

「きのうまでの幸村とは何か違う…」

感じたままを口に出すと、俺は躊躇わずに一張羅を選んで自室を後にした。
2/20ページ
スキ